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□従者が背負う五の試練
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「主人、朝です。お目覚めを」



縦にも横にも広い厚いカーテンが、一気に左右に開かれた。




黒スーツに身を包む青年は、開いたカーテンを窓の端へともっていく。
それをまとめて、紐で中心より少し下で丁寧に結んだ。


振り返れば広いベッドで、すっぽりと頭から毛布を被っている『主人』と呼ばれた者。まったく動かない。



「主人。起床のお時間です」


「……まだねみい…」



ベッドの主の、くぐもった声が小さく聞こえる。


青年はゴツゴツと靴を鳴らしベッドに近づく。毛布を掴み、それを一気にはがす。



ベッドの主は服を下だけ着て上は裸だった。寒いっと部屋に響く。

そんな言葉は無視し、青年は毛布を適当に床に投げる。



バッと青年の方を向いた所で、青年がニコリと笑う。



「おはようございます。元希様」


「…はよ。準太」



準太、と呼ばれた青年。
だがすぐに違いますと訂正された。



「高瀬、とお呼びください」


「いいじゃん2人っきりだし。その口調止めろよ?」


「…だったら早く起きろよ、榛名。飯出来てんだ、冷める」


「へーへー」



急に言葉遣いが変わったのに注意することなく、榛名と呼ばれた『主』は欠伸を一つ。






準太は棚から服を靴を取り出し、榛名のもとへ投げるように渡す。

次に鏡の前から「くし」を取りベッドにまた投げる。


着替えや身だしなみを整える準備だ。



「今日これ着んの?」


「客が来る、10時に。…ほら、そこで顔洗え」



広い部屋の片隅にキレイな洗面台が、前左右、鏡に囲まれてある。

それに水を張り、タオルを用意し、榛名を導く。


寝起きでまだ頭の働かない主を洗面台までようやく連れて行き、髪がヒドく濡れないようピンで留める。



「はいどーぞ」



タオルを手にかけ、横に立つ。

その準太の姿は、背筋は伸び、足も揃い。美しいの一言だ。




「タオル」



適当で豪快に水で顔を洗った榛名の手元にタオルを近づける。
せっかく気を使ってピンで髪を留めたのに、無意味だった。すっと慣れた手つきで抜いてやる。



「歯磨きは?」


「飯食った後」


「じゃあベッド座れ、髪も拭かないと」



返されたタオルを洗面台に引っ掛け、ベッドに向かう榛名を追う。


棚から新しいタオルを取り出し、ベッドに再び戻った榛名の髪を柔く拭いてやる。


ある程度乾いた所でベッドに投げていたくしを、これも慣れた手つきで使い、さっと解かす。



次に純白のシャツを背中にかけ、腕を袖に通すよう促す。



「1人でも着替えられるし」


「嘘つけ。どうせまたボタン留め間違えるんだろ」



下からボタンを留め、一番上は留めない。榛名が苦しそうにするから。


当然、客人の前では上まで留めてもらうが。







全ての着替えを終えた所で、もう一度その漆黒の髪を整える。



そして。




「…よし、いいな」


「準太」


「ん?」


「いつもサンキューな」


「……別に」



ふいっと、どこか恥ずかしそうに斜めを見る。





だが、これは当然の事なのだ。


準太は榛名の執事であり盾であり従者であり。


榛名は自分の主人だ。

榛名元希の為『だけ』にある者だ。



T.主の世話をすべて焼く事


(これくらい、まったく問題ない。普通と言うより、当たり前。)





「飯が冷める。行こ」


「おお」




(では、参りましょう。我が主人)






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