短編

□2
1ページ/7ページ






男だと思っていて、その通り男だった。

顔はまた、まだ見えない。



――待ってろ



オレの声が届いたらしく、『誰か』は、笑った気がした。





「待ってるよ」


















「……島崎さんに聞いた方が早いよな」



携帯を握りしめて、ベッドに座る。



あの後、今日は解散するかと切り出した島崎に賛成し、榛名は秋丸と共に電車に乗り、別れて家に帰ってきた。


夕食も多くとらず、風呂に入り、部屋でずっと考えていた。



自分の事。




みんなは知っていて、自分は知らない事。

自分だけ違う人間のような感覚。あまりいい気分ではない。




夢の中に現れる、男。


彼の事が分かれば、思い出せば。忘れている何かを全て思い出せる?

彼は自分を知ってる。
自分は、彼と知り合いなのか。または、これから会うのか?




話しぶりからして、あのいやらしいで有名という島崎は、自分のしらない事を全部知っていると思う。



――誰が教えてくれた?



「………」



最初に、いやらしいで有名な人物だなんて、誰が教えてくれた?




『……いやそこは……目つきとか雰囲気から…教えてもらったんじゃない…か?』



首を左右に振り、ただでさえわからない事で頭がいっぱいなのに新たな疑問を増やしたくない。



カチッと、携帯を開いてアドレス帳のボタンを押す。

さ行から探す、島崎。


カチカチカチと親指を動かし、画面を下へ。







「……ん?」




島崎、という文字が、ない。


違う名前で登録しただろうかと、あ行で探す。


いやら慎吾。





だが、ない。





「登録、してなかったか」



てっきり登録していたものかと思って。


だって出会ってから結構過ぎていて、出会いは……。



――出会いは?





『…分かんねえ』




自分にイライラしてくる。
自分はこんなに物覚えが悪かったのか。


カチカチとアドレス帳の中を見る。
そういえば、アドレス帳を見るのは久しぶりだ。


もう連絡していない人物の名前からそうでない人物の名前を眺めながら、あ行から順に見ていく。




「………………ん?」




さ行最後までいって、次のた行で榛名は眉をひそめた。






高瀬準太



「高瀬ぇ?今日会った、あいつだよな」




男にしてはキレイ顔。袖を指先で掴んできた。筋肉がつきにくいと苦笑した。腹が減ったとゴツいハンバーガーを注文した。




悲しそうな顔ばかりしていた。




「…アドレス交換、したっけ?」



記憶を巡りながら、高瀬準太と書かれた文字を押す。






.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ