短編

□あなたを待ってる
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夢の中。


いつも暗闇の中にチラついて、巡って、浮かんで。

明るくなっては、『誰か』いて。顔は見えない。光のせいか。それとも…。


――誰?


『誰か』は自分を知っている。こっちを見て笑っている。

表情は分かる。なのに顔は見えない。何故?



とてもキレイな笑顔なのに。



自分は、こいつを、知っている、のか?




誘うように手を差し出せば、『誰か』もどこか恥ずかしそうに手を伸ばす。


あと数センチで届く、と言うのに、






「…………またか」




その手を掴める事なく、目が覚める毎朝。


そんな夢ばかり見続けて、もう数週間。


スッキリしない、どこか感じる喪失感。
こんな気分も同じく数週間。



全く訳が分からない。




そんな気持ちを胸に、榛名元希は今日も朝練へと向かうために、とりあえず顔を洗いに自室を出た。

















「榛名、今日も夢見たの?」


「んん、ああ、まあ、見たな」




朝練をこなし、学校が始まり、半分以上不真面目に過ごして、現在は昼休み。
やっと昼休みだと、榛名は同級生の秋丸の教室に弁当を持って来ていた。


毎晩見る夢の話を、秋丸は毎日聞いていた。
心配してくれているのだろうと、大して話題もないしと榛名は話していた。

それを秋丸は熱心…とまではいかないが聞いている。



「今日はどんな感じ?」


「どうもこうも、変わんねえ。いつもと同じ。手ぇ出しても結局掴めないで起きる」


「最近は進展ないね。…顔もやっぱり見えないの?」


「……男っつうのはわかんだけど、見えねえ。でも多分キレイ顔だな」


「なんで」


「笑顔がキレイだ」



と思う、と後ろにつけて弁当をかき込む。
ちらりと見えた秋丸の表情は、何か考えていた。












そして、また見る。
無限ループのこの夢を。



でも今回は違った。

微かだが、声が聞こえ、喋っているのが分かる。


相手は自分に何か言っている。でもなかなか聞き取れない。

夢というのは、自分の意思に関係なく進む。体も勝手に動く。



自分の体は、『誰か』とは反対の方に歩きだした。

なぜだ。話を聞かないのか?


遠ざかる『誰か』の声。
聞きたい。止まりたい。なのに夢の自分は。



微かに耳に届いた言葉は、短かった。






「待ってる」


――なにを?
















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