短編
□ナンパ
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「あー……ナンパだな」
◆ナンパ◆
電車に乗ってこれから帰るっていう時に、こいつはいた。
榛名元希。
知らない訳ない。だってこいつ目当てで試合だって見に行った事がある。
オレよりいい体格で。
背だって高い。胸板も厚くてがっしりしてる。
自慢の左腕だって、シャツの上からだって分かる。素晴らしいの一言。
あの投球、忘れはしない。
そんな男がオレを見つけた瞬間、迷うことなく真っ直ぐこっちに来て。
あんまりにも真っ直ぐ…射抜くようにこっちを見てくるもんだから、なぜか緊張して動けなくなった。
ピタリとオレの前に立ち、少し身長差があるからオレは目だけ上に向けた。
またこいつ。榛名もやたらオレを見やがる。穴が開くという例えはこいつにあげたい。
「なんだよ」
そう一言オレは言った。
見るだけなら遠くから見てくれ。いや、それも気持ち悪いけど…。
ある意味、隠れることなく堂々と見ているこっちの方がいいのだろうか。
「高瀬準太?」
あ。いい声。……ってじゃない!
やっと口を開けたこいつは、語尾が上がったから…確認してる?
そうだけど。
うん、大丈夫。オレは間違いなく高瀬準太だ。
「なあ、高瀬準太かよ」
「そうだけど。なんだよ」
「オレ、榛名元希っつうの」
「知ってる。武蔵野の投手だろ」
「あ。よかった、覚えててくれたのか」
その言い方だと、まるでオレたちは1度会った事があるみたいじゃないか?
そんな疑問を頭で巡らせていると、榛名はポケットから黒い携帯を出した。
パチンと開き、ボタンを押してる。
そして言った。
「メアドとケー番、教えろ」
命令形なのか。