短編

□姫とドロボー
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オレの恋人は、「姫」なんていう称号がついているらしい。
いやらしいと有名な先輩が付けたらしく、いつの間にか部全体に広まったって言ってた。




まあ分かるよな。

野球部にはとても不似合いなサラサラな髪。きめ細かな肌。真っ黒な目に形のいい唇。

女も羨む姿をしてる。





ま、そんな奴の心をものにしたのはオレで。

めっちゃ好きで、すげー自慢出来る恋人だ。

















「……姫」

「止めろそれは」

「いや〜すげー似合ってるからさ」

「嬉しくねえし!」



その性格は意外にも男らしくて、称号を気に入ってない。



学校帰りで、オレの家に泊まりにきた準太はもう寝る体勢。布団にくるまって横になっている。



あ。当然一緒に寝るわけで、一緒にベッドの上にいる。
親が敷いてくれた布団は無視。枕はとったけど。



「も〜マジそれイヤなんだって。姫ってなんだよなあ」

「いやもう、分かるわ」

「分かんねえ」



自分の美貌(?)に気付かないってのは、そりゃそうだよな。本人だし。
気付いててもヤだけど。ナルシストな準太とか、あんま想像できないし。



「ふあ…あ〜……つかもう寝ようぜ、疲れた…」

「え、寝んの?」

「え、寝るだろ」

「これからオレと夜の営みをするんじゃ…」

「1人でやってろ」



そう言って準太は頭まで布団を被って、オレに背を向けた。


うあ〜、オレまじ今日ヤる気だったのに。



「準太〜、寝んなよー」

「……」




ちくしょう無視か、得意分野だもんな準太の。1人残されるのってめちゃくちゃ寂しいんだぞ。




……やべ。ホントに寂しくなってきたかも。




「じゅ〜んた〜、オレ寂しくて死ぬぞ〜」

「死ね」

「ヒド。……ヤりてえって言わねえから、こっち向けって」



なんか情けなく感じるけど、仕方ないだろ。好きなんだから。惚れた弱みだ。





と。オレの願いを聞いてくれたのか、起き上がった準太がオレの方を向いた。

クスって笑われた。



「なに情けない声だしてんだか」

「…わりいか」

「んーん。なんか甘えられてるみたいで、可愛い」



よしよしと撫でてきた手を優しく掴み、口に持っていく。

手の甲に、ワザと音を鳴らしてキスする。


驚いた表情をして、みるみるうちに真っ赤になっていった準太の顔が面白い。




「…可愛いのは準太だし」

「おまっ…」

「ヒヒっ。手の甲にキスとか、準太マジに姫だな」

「だから姫はっ…。……じゃあ、榛名は?」

「あ、オレ?」

「オレが姫なら、お前は?」



軽く俯き、恥ずかしそうに聞いてきた準太がめちゃくちゃ可愛い。



準太が姫なら、オレは………。











「―…ドロボー」

「…王子様じゃないんだ」

「王子様なんてそーんな、決められた奴と一緒になるなんてイヤだね。だったら自分で好きな奴見つけて一緒になる」

「だからってドロボーかよ」



微妙な顔をした準太は、オレの手からスルリと自分の手を抜きとり、キスした甲を見ている。





「…準太」

「ん?」

「オレは武蔵野、お前は桐青」

「…う、うん」

「だから、ドロボー」




他校の「姫」を頂きました。




そう続けたら、首をかしげて困った顔した準太に。


「…姫って言うな」



ってまた言われた。




その顔は、やっぱり赤かった。





END.

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