短編
□あなたに気持ちを
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榛名はモテる。
女子から告白される事は少ない方じゃないし、むしろ多い方だと思う。
だから、今日2月14日のバレンタインデー。
「…なんだこりゃ」
学校に来てみれば、机の中。
ピンクだの赤だのと、色鮮やかな包装に包まれた小さな箱が溢れていた。入りきらなかったのか、机の上にもいくつか置いてある。
「うわ、榛名今年もいっぱいだね〜」
一緒に登校した秋丸が言った。
今年『も』。思い出してみれば去年もこんなのがあったような、と。
去年の事なんてすっかり忘れている榛名は、ガコガコと机の中から箱を引っ張り出す。
「こんなに食えねーし。つかいらねーし」
全部取り出し机の上に乗せてみると、軽く山になった。
よくよく見てみれば、何枚か手紙がついていた。ラブレター、といった所だろう。
だが榛名は。
「全部捨てる」
「はっ?なんで、もったいないじゃん。て言うか、失礼じゃない?」
「いらねーし食えねえ。それに、誰からかも分かんねーのなんて、それこそ欲しくないね」
言っている通り、ほとんどの箱には誰からかなのか、送ってくれた相手の名前が書いていない。
ただ「榛名くんへ」としか書いて貼っていない。手紙には、当然名前は書いているが。
だが榛名はどっちにしろ手紙だろうがチョコだろうが、貰う気はないらしい。
「ヒドい男だねえ…嫌われるよ?」
「いーよ別に、めんどくせえ」
欲しかったらもってけと秋丸に言えば、いらないよと返ってくる。
そこで、榛名の携帯が鳴った。
「あ、電話」
「誰から」
「…おっ!準太だっ!」
もしもし、と電話に出た声はとても明るい。
チョコをくれた女子たちは、きっと唖然とするだろう。
皆が思いを寄せている榛名は、残念ながら付き合っている。
しかも、男。
桐青高校の高瀬準太とだ。
『あ、おはよう榛名。今…大丈夫か?』
「全然オッケー。どうした?」
『あ〜………放…課後の、部活終わった後って……あの……その…………会えない?』
何故か言いにくそうに途切れ途切れに話す準太を榛名は嫌がらず、むしろ可愛いと思いながら聞いていた。
「会える。今日どーせ休みだし」
『え、マジ?…オレは部活だから……じゃあ』
「じゃあ待ってるわ。迎えに行って、桐青の学校前で待ってる」
『いっいいって!長いし、目立つだろ!』
「大丈夫だって!何時に終わるんだよ?」
榛名が人を待つだなんて。
秋丸は少し驚いた。
その顔はとても楽しそうで、幸せそうだ。
そんな榛名を見て秋丸。
『そんな顔出来るなら、みんなにもしてやれよ』
と、多分捨てられる運命の箱と手紙達を見てそう思った。
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