短編

□あなたに気持ちを
1ページ/5ページ





榛名はモテる。
女子から告白される事は少ない方じゃないし、むしろ多い方だと思う。



だから、今日2月14日のバレンタインデー。











「…なんだこりゃ」


学校に来てみれば、机の中。

ピンクだの赤だのと、色鮮やかな包装に包まれた小さな箱が溢れていた。入りきらなかったのか、机の上にもいくつか置いてある。



「うわ、榛名今年もいっぱいだね〜」


一緒に登校した秋丸が言った。

今年『も』。思い出してみれば去年もこんなのがあったような、と。

去年の事なんてすっかり忘れている榛名は、ガコガコと机の中から箱を引っ張り出す。


「こんなに食えねーし。つかいらねーし」


全部取り出し机の上に乗せてみると、軽く山になった。
よくよく見てみれば、何枚か手紙がついていた。ラブレター、といった所だろう。




だが榛名は。



「全部捨てる」

「はっ?なんで、もったいないじゃん。て言うか、失礼じゃない?」

「いらねーし食えねえ。それに、誰からかも分かんねーのなんて、それこそ欲しくないね」


言っている通り、ほとんどの箱には誰からかなのか、送ってくれた相手の名前が書いていない。
ただ「榛名くんへ」としか書いて貼っていない。手紙には、当然名前は書いているが。


だが榛名はどっちにしろ手紙だろうがチョコだろうが、貰う気はないらしい。


「ヒドい男だねえ…嫌われるよ?」

「いーよ別に、めんどくせえ」


欲しかったらもってけと秋丸に言えば、いらないよと返ってくる。






そこで、榛名の携帯が鳴った。



「あ、電話」

「誰から」

「…おっ!準太だっ!」


もしもし、と電話に出た声はとても明るい。





チョコをくれた女子たちは、きっと唖然とするだろう。


皆が思いを寄せている榛名は、残念ながら付き合っている。




しかも、男。


桐青高校の高瀬準太とだ。



『あ、おはよう榛名。今…大丈夫か?』

「全然オッケー。どうした?」

『あ〜………放…課後の、部活終わった後って……あの……その…………会えない?』


何故か言いにくそうに途切れ途切れに話す準太を榛名は嫌がらず、むしろ可愛いと思いながら聞いていた。


「会える。今日どーせ休みだし」

『え、マジ?…オレは部活だから……じゃあ』

「じゃあ待ってるわ。迎えに行って、桐青の学校前で待ってる」

『いっいいって!長いし、目立つだろ!』

「大丈夫だって!何時に終わるんだよ?」




榛名が人を待つだなんて。
秋丸は少し驚いた。


その顔はとても楽しそうで、幸せそうだ。

そんな榛名を見て秋丸。



『そんな顔出来るなら、みんなにもしてやれよ』


と、多分捨てられる運命の箱と手紙達を見てそう思った。





.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ