短編

□箱一つじゃ足んない
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「オレに渡すものあるだろ」

「何もありません」

「嘘つけっ、今日何の日だと思ってるんだよ」

「存じません」

「おいっ説得力ねえぞ。その袋いっぱいのもんはなんだよ」

「糖尿病の原因」



榛名はため息をついた。目の前の高瀬に向けて。

今日はバレンタイン。


「わざわざ人の高校までやって来て、強請るなよなあ…」


次は高瀬が溜め息をついた。呆れてだ。
榛名の言うとおり、高瀬が持っている袋には沢山の色とりどりの箱が入っている。
外見も悪くない、しかもエースピッチャーである高瀬は結構モテる。

…と言っても、高瀬に言わせれば榛名程でもない。


「お前だって、なんだよその袋。オレより確実に多いぞ」

「仕方なくだ。貰ってもらえるだけありがたく思え」

「それはオレに向かって言ってるんじゃないよな?オレはやらねえぞ」

「なんでだ!」

「うるせえ…」


夕方の校門の前で構わず大きな声を出す榛名に、高瀬は言葉通りうるさそうに目をつむった。
近くに誰もいなくてよかった。

榛名は更に高瀬に近づき、再び言う。


「くれよ」

「だからないって…」

「え〜マジかよ」

「マジマジ。欲しいなら今日の昼購買で買った余りのパンやるよ」

「いらねえっ!」


そう言うと高瀬はエナメルバッグを漁る。
榛名はうわ〜…と白い目をする。

本当に、高瀬は榛名に何も用意していない。
それは高瀬がただ単に自分が甘い物が好きじゃないからとか、面倒くさいからとかでもなくて。

用意する必要がない、と思ったからだ。


「はい、あんパン。半分余ってる」

「……仮にも恋人にお前はなんつう…」


受け取った榛名は頭を抱えた。高瀬はケラケラ笑う。
これオマケ、と飴を1つ。貰いものだが、多分食べないだろうと渡してしまう。

榛名は頭を上げて、小さく笑ってる高瀬を見る。
ん?と高瀬は首を傾げる。


「はあ…じゃあ今からどっか行こーぜ。ゲーセンとか」

「ああ、いいよ。…てかこれ邪魔じゃね?」

「どっかコインロッカーに入れておけばいいだろ」


歩き出す2人。
榛名はもう気にしていないみたいだ。
いちいちバレンタインで浮かれられてもと高瀬は思う。

こんな箱一つで、自分の愛全て伝えられる訳じゃないんだから。


『いつも通りで、な』

END

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