保管所

□風船の向こう(かいけつゾロリ)
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昨日、ゾロリちゃんがミャン王女と映画鑑賞に行くって話してたの。先回りしたらとっても賑やかな映画館だったわ。後からやって来たゾロリちゃんはせっかくの「恋人としての初デート」なのに、全然乗り気じゃなさそうだったけど、王女は喜んでたわ。私が直接会ったのはカラオケ以来だけど、そのときより綺麗になってたわね。

映画の内容は「対立していた二つのラーメン屋が、ある事件をきっかけに協力して奇跡のラーメンを生み出す」という実話を元にしたドラマ。これってやっぱりゾロリちゃんがラーメン王を騙ったときのお話だったのかしら?帰宅してからイシシちゃんとノシシちゃんに感想聞かれたら、
「偽ラーメン王の俳優が不細工だったんだ。おれさまとしちゃそこが一番大事なポイントなのに、監督は何もわかってなかったぜ」
と不満そうだったし……私から見たらあの俳優さん、ゾロリちゃんにそっくりだったけど。映画予告編の時点でポップコーンを食べ終わって、映画開始十分くらいで寝てたみたいだから、もしかしたら話を覚えてもいなかったかも?カラオケのときには仕方なかったけど、今日はもうちょっと頑張って欲しかったわね。王女が気を悪くしないでよかったわ。

ゾロリちゃんはともかく、王女は最後までスクリーンに釘付けだったの。きっとあの映画を選んだのは彼女だったのね。彼女は偽ラーメン王のモデルがゾロリちゃんだってことを知らないはずだけど、彼のいたずらが炸裂する度に目を輝かせてたように見えたのは、気のせいだったかしら?


映画のエンドロールも終わって、ミャン王女は
「ねえゾロリさん、終わったわよ」
とゾロリちゃんを揺すって起こそうとしたけど、すっかり熟睡していたわ。強引に起こすのは悪いと思ったのかしらね、そのままにして王女はパンフレットを買いに一旦外に出たのよ。私も彼女について行ったわ。戻ったら、タイミングが悪いことにゾロリちゃんも席を離れてて。
「ゾロリさん、どこ行っちゃったのかしら」
彼女の表情を見て、私まで心配になっちゃったわ。こっちの世界について知らないことだらけだから、一人でいるのは怖かったのね。

トイレにいると思ったのかしら、そちらの方に王女は向かったわ。すると突然
「そこのお姉さん、どうしたの?」
と背後から声をかけられてね。
私と王女が振り返ると、いかにもチャラチャラしてそうな格好の、若い男の人だったのよ。私にはすぐナンパとわかったけど、王女にはまだその辺について詳しくないんでしょうね、
「あ、あの……」
と困ったような返事をしちゃったの。これじゃあ相手の思う壺だわ。
「ねえ君すっごく可愛いね!一人なら、オレとこれからどっかに遊びに行かない?」
今時こんなわかりやすいナンパって逆にないけど、王女は完全に固まってしまったわ。どうすればいいのか想像もつかないみたいで。ちょっぴり可哀想になったわ。
「じゃ、行こうか!」
王女が答えないのを、男の人はOKの合図と受け取っていきなり手を握ってきたわ。
王女はビックリしてすぐ離そうとしたんだけど、男の人が
「えー、嫌なの?」
と不満そうにもう一度握り直そうとしたわ。
そのときようやくゾロリちゃんがトイレから出てきたの。
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