保管所

□詐欺師と喧嘩と壊れたゲーム(かいけつゾロリ)
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ノシシは困っていた。
目の前の双子の兄、イシシも同じ難問に取り組んでいる。
彼らはまた、師と崇めるゾロリと喧嘩をしてしまった。
彼らの喧嘩はほとんどが双方の幼稚さに起因しており、何だかんだですぐ仲直りができるものだった。
だが、今回は事情が特殊だったのである。





話はゾロリが念願のゾロリ城を手に入れた直後に遡る。
彼がマイホームでまず最初にやろうとしたことはゾロリーヌのまともな墓を作ることで、それはすぐ終わった。
それと同時進行で進めていたもう一つの計画は手間がかかった。
今は店頭でもまず見かけなくなった数世代前のゲームのハードウェアを探すのに苦労したし、さらにそれを盗むのにも危険が伴った。
なんとか入手に成功し、彼は震える手でテレビにコードを繋ぎ、コンセントを挿し、あるソフトをカートリッジに取り付ける。
このソフトは彼が百年以上生きた人生でただ一人、まともな恋愛をした相手との思い出の品だった。
「このゲームで遊んで、自分のことを思い出して欲しい」
別れの直前、彼女は彼にそう頼んだ。
ようやく彼女の頼みを聞いてやれるときがやって来たのだ。

ゾロリがスイッチを入れるのを見て、ノシシもひどい緊張感に襲われた。
ハードの起動画面が表示された。
が、その後は明らかにおかしいぐちゃぐちゃな画面しか表示されない。
「バグる」と呼ぶに相応しい。
もっとも、彼女と別れてからの旅の中身を顧みれば、ソフトが原型を保っていたこと自体が奇跡のようなものだったのだが。
さすがのゾロリも、こういった大量の情報が詰まっている精密機械を復元することは畑違いだった。
もはや打つ手はなく、諦めるしかなかったのだ。

いつも一緒の子分から見ても、そのときのゾロリの落胆は尋常ではなかった。
「おれさまはもう過去のことは忘れて生きるんだ!今流行りの婚活だ婚活!」
やけっぱちになったゾロリは何を思ったのか、二人が止めるのも聞かず本気で結婚相手探しを始めることにした。
インターネットで自分に都合のいい嘘を交えた情報を流す。
二人はどうせ無理だろうと思っていた。
なにしろ、師はバレンタインデーに自分にチョコレートを買うような男だ。

「ギーサです。ゾロリさんのように知的な方とお知り合いになれて嬉しいです」
待ち合わせ場所のカフェに現れた白ウサギの女は、最初にそう名乗った。
カフェの陰から様子を窺っていた二人にも、彼女が大人の女の身体の魅力を持った美人だとはっきりわかった。
もともとストライクゾーンが広めに設定されているゾロリである。
熱烈な思いを抱くのに時間はかからなかった。
ギーサもゾロリに好意を抱いているらしく、彼の城のことや発明品の数々について何度も聞いてきた。

ゾロリがお嫁さんを貰うことにイシシもノシシも反対はしないし、応援する気もあるが、何だかひっかかった。
何故ならギーサはゾロリ個人がどんな男なのかについて、強い関心を抱いてなかったように見えたからだ。
一方、とうに冷静さを失ってしまったゾロリはデレデレしたままで相手を疑う素振りすら見せなかった。
親分のお嫁さんには、ありのままの彼を受け入れてくれる人物でなければならない―――そうノシシは考えていたが、
カフェでの観察は強い不安を抱かせるだけであった。

子分の心配をよそに、トントン拍子に結婚話は進んだ。
すっかりその気のゾロリはゾロリ城の隣に豪勢なウエディングチャペルを建設し始める始末である。
子分が手伝おうとしなかったので、たった一人で造成していった。
なにしろ、師は遊園地を十日で完成させる男だ。

夜は夜で、彼にしては珍しいことに真面目に机に向かっていた。
ギーサが彼の才能をビジネスに展開してはどうか?と提案してきたのだ。
彼は自分の発明を特許に申請できないかと思い、勉強を始めた。
ここ数日イシシとノシシと接する時間がめっきり減っている。
ますます二人は、ゾロリが騙されているのだろう、と思うようになった。

あげくの果てに、明後日の結婚式にはギーサのごく限られた知人とイシシ・ノシシだけが参列するとゾロリは言い出した。
いわゆる「地味婚」を彼女がしたがっているのだとゾロリは説明した。
しかし、彼女の仲間が口裏を合わせているようにしか思えなかった。
ふざけている。
「ゾロリせんせ、おらあんまりこんなこといいたかないだけど、せんせは騙されて」
「なにぃ!?イシシお前ギーサさんを詐欺師扱いするのか!?」
よほど頭に来たのだろう。
チャペル製作に参加しなかったこともあり、ゾロリの声は強い怒りの感情が混ざっていた。
「ギーサさんが結婚したいのはゾロリせんせじゃないだ。せんせの城と発明品だ」
ノシシもゾロリを説得しようと試みるが、プライドが人一倍高いゾロリにとっては逆効果だった。
「そうかお前たち、おれさまの最後の夢がもう少しで叶いそうなのにそんなこと言うんだな!
もうおれさまの子分じゃない、出てけ!」
ゾロリの部屋の外に投げ出され、ドアが内側から厳重に閉められた。
これでは、もうどんなにノックしても暫くは開けてくれそうにない。
憔悴した二人がろくに片付けもしてないゲーム部屋に戻り、今に至る。
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