保管所

□姪と叔父(私のあしながおじさん)
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ハイスクール最後のクリスマスは、ジュリア・ルートレッジ・ペンデルトンにとっても苦いものになってしまった。
寮のルームメイトのジュディ・アボットとサリー・マクブライドの二人を、一族主催のパーティーに招待したのがジュリアだったからだ。
ところが、ジュディが突然会場を出てファーゲッセン寮に帰ってしまった。
電話にも出ようとしない。
そして今、目の前では彼女の母と叔父のジャーヴィス・ペンデルトンが一触即発の状態でいる。
母がジュディの無礼を責めたせいか、ジャーヴィスの表情は不機嫌そのものである。
幼い頃から見てきた叔父ではあるが、笑い以外で感情をあそこまであらわにするのを初めて見た。

ジュディが何故会場から去ったのか?
母がジュディに何を伝えたのか?
ジュリアには大方の見当がついていた。
だが、確信を得るには、今部屋を出ていったジャーヴィスと二人きりで話す必要があった。

「ジャーヴィス叔父さまに話がありますの。悪いけどサリーはここにいてくださらないかしら」
「え?う、うん」
サリーは戸惑ったが、ジュリアの真剣さに押されてそれ以上何かを言おうとはしなかった。
意を決してジュリアはジャーヴィスと二人きりになる機会を得ようとした。
ジャーヴィスがいるであろう部屋の前まで行き、ノックした。
「叔父さま、ジュリアよ。私どうしても叔父さまに聞きたいことがありますの。
お部屋に入れてくださらない?」
「ジュリアかい」
どのくらいなのかわからなくなるほどの静寂の後、ようやくドアが開いた。
ジャーヴィスはまだ仏頂面を続けていたが、入りなさい、とだけ言った。
ジュリアは部屋の近くに誰もいないか十分確認して椅子に座った。

「ジュディは孤児院出身なのでしょう」
単刀直入に尋ねた。
「……どうしてそう思う」
別の椅子に腰かけたジャーヴィスは肯定も否定もしなかった。
「今だから言うわ。ずっと前に、ジュディの出身を調べましたの」
入学間もない頃、ジュリアはルームメイトに勝手に対抗心を持ったあげく、彼女について調べようとしたことがあった。
「でも、詳細がほとんど分からないままで終わってしまったの」
普通両親の名前や住所などが記録されているはずなのに、ジュディのものだけは明らかに違っていた。
「名前を出さずにスローンさんに聞いてみましたわ。そういうケースは孤児院出身の方が多いと教えてくれたの」
「……」
ジャーヴィスは黙ったままだった。
「そのときは結局有耶無耶で終わったわ。でもジュディの小説の孤児院の描写が妙にリアルだったり、ある孤児院と関わったときにムキになっていたり、今考えると辻褄の合う部分があったのよ。
それにさっきママがジュディの態度に文句を言ってたわ。きっとママも調べたはずよ、それもかなり詳しくね。
ジュディは不満があったらはっきり言える子よ。黙って出ていった―――何も言えなかったってことは、それだけ隠したい何かがあったのよ」
ジュリアの的確な推理に、ジャーヴィスは既に諦めが入ったかのように見えたが、まだジュリアは続けた。

「そしてジュディの後見人のジョン・スミス氏だけど……こっちはまだ自信がないの。でも言わせていただくわ」
握り拳に余計に力が入る。
「ジュディの後見人は、ジャーヴィス叔父さまなのでしょう……?
夏の休暇に、ジュディがアディロンダックに行くのを禁じたのは、叔父さまだったのでしょう?」
もしこの推測が違ったら、失礼な話だ。
ジュディがアディロンダック、つまりサリーや兄のジミーの家の別荘に行くことをスミス氏は最後まで許さなかった。
しかし今回のペンデルトン家のパーティーに来ることはあっさり許可したのだ。
「ジミーと一緒にいるのが駄目で、叔父さまと一緒が問題なしなんておかしいわ」
ジュリアはまるで自分自身に納得させるかのように話し続けた。

ジャーヴィスがため息をついた。
肯定のサインである、とジュリアは受け取った。
「まさかジュリアがそこまで気付いているとはね」
ジャーヴィスが笑った。
ただし力が抜けたような作り笑いで、悲しそうなのは明らかだ。
「これ以上隠しても無駄だろうね。
そうだよ、私がジョン・スミス。ジュディの後見人だ」
「叔父さま」
読みが当たってどこかほっとした。
「アディロンダックに行かせなかったのも、ジミーと長期間過ごさせたくなかったからだ。
もっとも、ジュディは最初から恋愛感情はなかったみたいだけどね。子供じみたエゴだったよ」
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