保管所

□帽子(赤ずきんチャチャ)
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十二月末。
騒がしいクリスマスも終わり、新年に向けてどこの家も大掃除に取りかかる時期だ。
その日ナミも自分の小さな部屋を片付けていた。
(この料理の本はもう奥の箱に入れていいわねー。
…この本のお菓子はまだ作ってないから、手前の箱でいいわー)
何年か前、ポピィの好物が卵焼きだと知ったナミは彼に喜んで貰おうと猛特訓した。
それがきっかけで、菓子をはじめ料理全般が彼女の趣味になった。
彼女の腕は決して悪くない、しかし人魚であるゆえに行う余計なアレンジが、現在に至るまでポピィをはじめ多くの食した者を苦しめてきた。
本人に苦しめている自覚がないため、犠牲者は拡大し続けている。

料理の本の分類が終わった。
ナミは滅多に開かないクローゼットを開き、二つの段ボール箱に本を入れることにした。
鈍い音がした後、部屋の散らかりの割に整頓されたクローゼットの中身が部屋の照明で明るみになる。
奥の箱に収納するためには、まず手前の箱を部屋の側に運び出さなければならない。
両手でないととても抱えきれないサイズの段ボール箱を持つと、大量の埃が飛び散った。
「きゃっ」
予想以上の量に一瞬驚いて、そのまま手を離してしまった。
元々重かった箱は、そのまま真下のナミの両足を直撃した。
「いったーい!」
とっさに足の上の箱をどかし、箱は横に倒れた。
ナミは痛みと情けなさでしばらくうずくまり続けた。

痛みがひいたのでナミは作業を再開した。
すると、それまで見ることのなかった箱の裏面に、平べったいものが張り付いていることがわかった。
何かしら?と不思議に思い剥がすと、それは埃で真っ黒に染まった小さな帽子だった。
おそらくナミのものなのだろうが、いつ頃被っていたものなのだろう。
ナミは埃を落としながら、しばらく考えていた。
そして箱の重みで潰れた帽子が元の姿を取り戻したとき、ようやく彼女は思いだしたのである。
「ポピィ先輩が取ってくれた帽子だわ!」
彼女が学園に入学して間もなくポピィと出会った日、その日の記憶が鮮明に蘇ってきた。

その日の朝、ナミはこの小さな帽子を被っていた。
もっとも当時は彼女の身体も小さかったので、むしろ大きいくらいであった。
縫いつけられたリボンが彼女のお気に入りで、外に出るときはたいがい使用していた。
彼女が校門近くの並木にさしかかったときのことである。
そよ風が一瞬だけ強まったかと思った次の瞬間、帽子が宙を舞った。
「!?」
木の枝に引っかかって動かなくなったのを見て彼女は大いに焦った。
何度か手を伸ばしてジャンプしてみるものの、当然届くはずもない。
今になって思えば脚立を借りてくるなりすればよかったのだが、当時の彼女にそこまでの知恵はまわらなかった。
「このままぼーしがずっと木の上にひっかかったままだったら…どうすればいいの…」
万策尽きたナミの目に涙がたまり、そのまま泣き始めた。
大声をあげる彼女を素通りする者も多く、それもまた悲しかった。
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