保管所

□飛んで火に入る夏の虫達(かいけつゾロリ)
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世界に名を轟かすトレジャーハンター、ゾロンド・ロン。
そんな彼が、とある若い父親と出会ってからもう一時間ほど経つ。

「ほら、これが塗り薬の代わりだ。ちょっと待ってろ」
ずっと座ったままの保護対象の眼前に、大量の薬草を掲げてみせた。
「本当に、なんとお礼を申し上げたらいいのか」
その生物はゾロンド・ロンに、申し訳なさそうに頭を垂れる。

「まあ気にすることはない。わたしもあんたみたいな立派な恐竜に会う機会を得ただけで満足だ」
励ます意味もこめて、ゾロンド・ロンは一頭の赤い巨竜に穏やかに言った。


この日、ゾロンド・ロンは南の地方に位置するこの無人島、「モスキー島」の洞窟を訪れていた。

事前に調べたときの話では、モスキー島にしかいないタチの悪い蚊が生息しているため、進んでこの島に上陸したいという酔狂な者はいないそうだ。蚊の生息数は少ない。しかし一度刺された後が厄介で、その痕は通常の虫刺されとは比較にならないくらいの面積が腫れ上がってしまうらしい。肉食獣ですらその腫れにはひどく苦しむので、蚊は凶悪性からモスキー島の頂点に立ち、それゆえに生息数が少ないのだ。
防護服に身を包み、さらには虫除けなどを愛用の赤い飛行機に詰め込み、着陸後は即座にお目当てのものが眠っているとされる洞窟に走った。
洞窟自体は百戦錬磨の彼にとって攻略が難しいものではなかった。
ただ、見慣れぬ鳥がやたら多く、彼らの鳴き声がうるさくてかなわなかったのは覚えている。
恐竜の存在に感づいたのは、最深部にある宝箱が見つかり、それをやはり難なく掴んだ瞬間のことだ。
ドシン、ドシンと地響きに近い音がなった。
普通の男ならそれだけで怖がりそうなものだが、彼の経験と知識の豊富さはこの事態から正解を導き出すのに十分であった。

―――そういえばこの島の近隣には「おっとっ島」があったはずだ。あの島の恐竜の生存、噂には聞いていたが……もし本当なら相当この洞窟の近くまで来ているんだろうな。

念の為護身用の短剣を右手に、宝箱を左手に持ちながら、再度鳥が喚き散らす洞窟の中から出口を目指した。
外の光が確認できるようになった頃。

バタン。

何かが倒れたような音と今までより一際激しい振動が起き、そして今度は静かになった。

―――ああ、これはさっきの蚊にでもやられたか?

そして彼が外に出た途端、尻尾に虫刺されの巨大な―――恐らくは自分と同じくらいの大きさの―――腫れが浮き出た赤い恐竜を見つけたのだった。尻餅をついた格好だ。尻尾ではこの恐竜の前肢が届きそうになく、実に不憫だ。

「うわあああああ、痒い、痒い、痒い!!!」
―――これはひどいな、なんとかしてやろう

「その虫刺され、わたしがやわらげるのを手伝ってあげよう」
「えっ……あなたは一体!?」
いきなりの助け舟に恐竜は驚いたようで、その声の相手―――実際のところ防護服で風貌はわからないだろうが―――に話しかけた。
「名乗るほどの者じゃあないさ。これ以上刺されたら大変だ、まずは虫よけを使おう。治療はその後だ」
「わ、わかりました。どうかお願いします」
自作した超強力蚊取り線香で辺り一面煙臭いが、今は贅沢を言っている場合ではない。次に虫刺されであるが、ゾロンド・ロンの手持ちの塗り薬では、とても足りそうになかった。

「この島には虫刺されに効く薬草が群生していたはずだ。しばらく周りを探してくる」
「は、はい……くっ……」

そして一時間後、彼は無事に薬草を見つけてきたのだった。
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