□バレンタイン記念小説
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『大嫌いだ』





HOT CHOCOLATE





寒い中上着も着ないで飛び出していった恋人。
何が悪かったのか、何に怒ったのか、よく分らない。

分るのはこの俺が動揺してることだけ。
煙草を持つ手が震えている。
初めて激しい感情をぶつけられた。




「あいつ・・寒いの苦手だろ」


分ってる、本当は。
あいつが今日を楽しみにしていたのも、今日のためにいろいろ頑張ってたのも。




追いかけないと
 あいつを手離したくはない。




雪が降りそうな空は、あいつの心模様。
絡みそうになる足を無理矢理動かす。

あいつはあの場所に居る。
絶対に・・・・。










「やっぱり居た」

小さく震えてる体を後ろから抱きしめる。

「こんなに震えて」
「なん・・何なんだよ」

涙がにじむその声にいとしさがます。

「ごめん。ごめんな」

「うるせぇーばかぁー」
悪態つきながらもしがみつく。


「帰ろう?」

「・・・・・・うん」









「俺ね、お前にね、」
「なに?」

ごそごそとポケットから取り出す。


「・・・ん」
「俺に?」

コクリと頷く。

「・・・て・・る」
「え?なに?」

「溶けてる」

泣きそうな顔は幼い。

かさ、不器用に包まれた小さい箱を開ける。

「溶けてる」
下唇を噛みうつむいた恋人をそっと抱きしめる。

「作ってくれたんだ」
「グズ・・甘いの・・・好きって言った」
付き合いはじめに話したこと。

”俺甘いのすきなんだよね”
”ふーん、だからいつもチョコ持ってんだ”
”そうそう”


そんな小さい一場面。

まさか覚えてるなんて思わなかった。


「溶けてても全然良いよ」
胸が熱い。
「ホットチョコにしよう。二人で飲もう」
「・・・うん」
「あ、雪だ」
「・・・うん」






一枚の毛布に包まってゆっくり雪を眺めよう。

ホットチョコレートを飲みながら。





-end-


 

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