おはなし。

□海の上を吹く風
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「ちょっ!…っぶない!!」

新曲のMV撮影で滅多に乗らない大きめの船が珍しくてキョロキョロしてたら突然腰から持ってかれた。

「わ!…めめ!?」

勢いよく後ろに俺を引っ張っためめは足を踏ん張って転ぶ寸前で耐えた。

ちょっと海を覗いてただけなんだ…最近気が抜けてるのかな。不注意で壁にぶつかりそうになったりペットボトルが口にめがけてこなくて溢しちゃったり。

その度にめめが側にいてフォローしてくれたりするんだよね。ありがたい。
…んだけど。

フォローのしかたが男前過ぎて、照れるっていうのと彼氏感すごくて『俺は男だぞ?』と言いたい。

「ごめ…めめ。足大丈夫?」

一応成人男子1人分の体重(照には軽すぎると言われたけど、筋肉の分増えた!と、思う!)を支えたわけだから痛めたとしてもおかしくない。

「へーき、阿部ちゃんのひとりやふたりくらい。」

「ありがと。でもオレふたりもいないし…」

あ、憎まれ口になっちゃった。こゆとこ可愛くないんだよな、オレって。
助けてくれたのに。怪我でもしてたら大変だったのに…と少し後悔してチラッと様子をうかがうと優しく笑って俺を見てた。

「だね。2人といないから阿部ちゃんて。」

ぐは…

「お前もだろ。」

あ、また。

違うんだって言おうとしたら目の前が暗くなった。

なに?オレ抱き締められちゃってる。

「そーゆーとこ、嫌いじゃないなぁ。」

低くて小さい声が耳をくすぐる。
こわ、これは惚れてまうやつや。
…て、なんでオレ関西弁?!

「…っちょ、めめ苦しいんだけど。」

「あ、そ?ごめん。」

…て言いながら少しだけ力が緩む。けどハグされたままで。
離してって言う前にめめは笑い出した、振動でオレの肩が小刻みに震える。

「もぉ…人来る。」

「お?なんか言い方エロいね。…うわっ。」

うわっていうのは俺が突き飛ばしたから。
胸の辺り拳でおもっきし押してやった。

「先輩だぞ!」

なんかテンパって変な返ししちゃった。
なのに、めめは余裕って顔してる。悔しい。

「撮影再開みたいだから、いこ。」

デッキの奥の方がざわつき始めた。佐久間とラウールの笑い声デカッ。

「じゃいこうか。阿部先輩。」

あ、さっきのの仕返しかよ。

言い返す間もなくグッと強めに手をひかれた時に潮の香りと馴染みのある石鹸みたいな優しい薫りがした。
あ…これ、めめの香水の薫りかぁ‥

されるままになりながら、この香りのせいでぼんやりしちゃうのかもなんて見当外れなことを考えたりしてた。

それだけ側にいるってこと…?
って考えたら気恥ずかしくなる。

半歩後ろを歩きつつ文句もうまく言えなくて、大きめの耳に光が反射するのを見てた。 

『手離して』と言ってもいいし、無言で離すことも出来た

だけど。

『めめの手は少し冷えていて重たいな。』

なんて、またしても見当外れなことを考えて

何故か胸がキュンとしてた。
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