おはなし。

□あるきはじめたぼくたちは。
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『来年の今ごろには終わってるよきっと。』

阿部ちゃんは、そう言って夜の道を少し走った。



俺って恋愛には慣れてるつもりだった。
気づいた時にはモテてる状態で。
何人かの女の子と付き合って、一番最後は10個くらいかな?年上の人と付き合って別れた。

仕事が忙しくなってきて別れた。つもりだったんだけどなぁ。
いや、認めねぇ。
やっぱ、仕事のせいだ。

『めめがそう思うなら、そうなんじゃん?』

それで終わった。俺のカコカノの話題。

実際、付き合うとかじゃなくても(女の子としか付き合ったことないし。)付き合うみたいな状態に持ってこうとは思ってたけど、いざこうなってみると阿部ちゃんが辛辣(こないだ教わった言い方ね。これ。)なことを思い知った。

本人わざとじゃないんだけど、それがまたキツイ。ま、慣れてきたけど。

『ごめん、めめ言い過ぎたわ。』

その言い方とか、トーンがいかにも阿部ちゃんで、なんか許す許さないの問題じゃなくなってくる。
阿部ちゃんこえぇな。

俺が阿部ちゃんと特別な関係になりたいって思ったのってそういうとこかもしんない。

『俺っていつから阿部ちゃんのこと気になってたんだろ。』

『おい、心の声漏れまくりなんですけど〜。』

唯一、相談に乗ってもらいたかったのが佐久間くんで理由は色々あるけど信頼できるから。

『今は誰もいないけど、ジョークで済まなそうなトーンで言うの止めてくんね?』

『あぁ、ごめん。…この後誰来んの?』

『照とコージ、らう?』

あと、阿部ちゃんと言うとニヤーと笑われた。くそ。

『まだ時間あるよね。』

『ん、毎度言うけど俺じゃあんま話し相手にならなくね?』

いつも通りのやりとり。

『なるって。』

実際、佐久間くんと話すと頭がスッキリする。
優しいからなぁ。
あと、阿部ちゃんのことよく知ってる。

『なんで、阿部ちゃんなんだろう。』

『もうゾッコンじゃん。』

『んなことないけど。』

少し年下っぽく拗ねた顔すると、佐久間くんは声を出さずに笑った。
こゆとこ大人っぽい。本人気づいてないかもだけど。

『最初からじゃないの。』

『え…?』

『お前さ、初めて俺らに会ったときのこと覚えてる?』

え、顔合わせは冬だったよな。コージもいて、ラウールを待ってた。

『あの時さ、フライングで…』

あぁ…と映像が淡く浮かぶ。

あの時、俺もコージもラウール待ってる間なんか緊張てか恐怖なのかな。震えそうになってる両手を見られないように上着のポケットに突っ込んでたのを思い出す。

そうだ、ラウールが学校終わるのを二人で待ってた。部屋には俺らしかいなくなってて周りの大人は廊下をバタバタ行き来してた。
コージと話してもアイツも緊張してるから会話があんまり続かなかった。
んで、

『俺らもさ、待ってるの疲れて、したら阿部ちゃんが飲み物買ってくるって廊下に出たんだよな。』

そうだ。俺も耐えられなくて、自販に行った。

『もぉ、フォーリンラブじゃん。お前ら。』

『見てないくせに。』

『あ!そーゆぅ言い方ぁ?せっかくイイコト教えてあげよっかともったのになー。佐久間さんプイだぞ。』

『ごめんごめん、話の腰折って。』

大袈裟に謝ると今度はガハハとらしく笑った。

『見てなかったけど、帰ってきた阿部ちゃん、お前にフライングで会っちゃったせいもあるけど焦って早口で一杯しゃべりきって、その後人形みたいにガックリ項垂れたの。』

くく…と口を押さえて、んでさ。と続ける。
もったいぶるよね。話し方うまいけど、このままだと誰か来そう。
だから、口は挟まずに頷いて見せる。

『突然顔押さえて、小声で【サクマ、オレ顔赤くない?】だって。』

『どゆこと?』

『や、不意打ちで会ったのも気まずかったのかと思いきや、【ねぇ、目黒ってすげぇ育ってない?近くで見たらハーフみたいで…】とかいってんの!』

声デカイ!

『で、』と佐久間くんが続けようとしたとき、カチャって静かにドアが開いた。
阿部ちゃんきた。

『サクマ、声デカイ。』

『阿部ちゃんおはよー。』

『おはよ。』

手をフリフリする姿は可愛いけど、横目で佐久間くんが笑おうとしてるのが見えてるから表情をセーブ。

そのまま阿部ちゃんは別の打ち合わせに出てく。

『しょんぼりですな。』

茶化す佐久間くんを端のほうに連れていき、話の続きをうながす。

『なに、めめ必死じゃん。そんなお前も悪くねぇよな。』

『そうゆうのいいから。』

『わーたよ。で…えと、そだそだ、んでさ更に小さく何かゆってんの。』

うんうん、とドアを気にしながら集中。

『したらさ、頬染めたまま【やばいやばい】って暫くパニくってから【目がめっちゃ綺麗だった】とかポツリとゆうの!遠い目して!まじヤバくない?!』

マジで?

『お前、わかりやすいな。めちゃにやついてんぞ。』

『一応確認しとくけど、その時の阿部ちゃん可愛かった?』

『え、そこ?』

だって、その反応は知ってる。女の子だとよくあるやつで俺の事気に入ると顔見れないし、やばいらしい。

『ほんと、お前モテてきた奴なんだな。思わず妬み通りすぎて爽やか方面で途中下車する勢いだわ。』

わけわからん。

『まぁ、俺から見てその時の阿部ちゃんは…』

『俺がなんだって?』

「「うっわ!!」」

突然声かけられて二人とも椅子から転げ落ちた。

阿部ちゃんはといえば、え!なに?そんな驚く?とか両手をパシパシ叩いて嬉しそうだ。かわい…

『めめ、かおかお。』

『へ?』

目の前の鏡を指差され見てみると、まだ喜んでる可愛らしい阿部ちゃんと、その手前に府抜けた表情の俺とあったかい目で俺を見る佐久間くんが写ってた。

まじ、はず…

でも、そっか阿部ちゃん可愛かったんだ。
あと、俺の顔好きっぽいな。
ちょっと安心したわ。


付き合ってる、とか、恋人、とか。
わからないけど、辛辣な俺の阿部ちゃんは

『来年の今頃は…』

なんてことを言うけど。


いま、心底おかしそうに笑う阿部ちゃんと、つられて爆笑してる佐久間くんを見て
柄にもなく、これでいいか
なんて、思ってしまった。
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