おはなし。

□おまじない
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「昼間は若干汗ばむくらいだけど、夜は冷えるかもね。雨は降らない。」

じゃ、傘いらないねと返すと、降るって言っても傘なんて持たないじゃんとフフフと笑ったのが後ろ姿でもわかった

なんだか、痩せたみたいだ

「ちゃんと食べてんの?」

「ん、オレ?」

「阿部ちゃんしかいないじゃん。」

すると、何怒ってんの?と、女の子みたいに見上げながらフフフとまた笑ってかわされてしまった

「なんだか最近元気ないみたいっすね。」

「ん〜?誰が?アベ?」

寝れてないみたいよ。変な夢がどーとか…

この人にはちゃんと言うんだもんな。
怒ってるというのもあながち外れてはいない。

子供扱いするなよ。
俺だって、この人と背も変わらない。
最近じゃ筋トレだって真面目にやってる。

そりゃ、年月は負けるけど…さ。

勝ち負けじゃないのはわかってるんだ。
わかってる。



「なにブツブツいってんの?」

今日は珍しく、二人だけ先に入って雑誌のインタビュー

とはいっても、この後続々とやってくるから貴重なこの時間を有効に過ごすためにどうすればいいか俺なりに考えた

「…あのさ、女子高生の間で流行ってるオマジナイ教えてあげようか?」

唐突に言い出した俺にキョトンとしてる、というよりは呆れてるのかなぁ。
まぁ、突然すぎた感は否めないけど、いまはそれどこじゃない。
一歩でも近くにいなくちゃいけないのに、焦れるわ。

俺がもんもんとしてる間も何か可愛い顔しちゃってる。
まいるわ。

「どした?いきなり。」

と、言いながらも面倒見が良いから手にしたスマホをいったん置いて、こちらを向いてくれる。
あざといと言われる原因でもある仕草なんだけど、唇にちょっと力が入ってるのが…
ありきたりだけど可愛いと思っちゃう馬鹿だよね。

「ちょっとさ、手。」

膝に軽く置かれた右手をつかみ、引き寄せると首をかしげて見上げてくる。

まじ可愛いからやめてほしいんだけど。

とは、言えないから。
ちょっと視線を外してみた。

俺にされるがままになってるけど、この人俺が悪いこと考えてる人だったらどーするんだろ。
まぁ、知ってる人に警戒しないか…

「軽くグーにして。」

ん…と小さく呟いて握りこぶしを作ってくれたのを確認しておまじないをかけた。

「ねぇ、なに?」

手首の回りに見えないヒモを結ぶ。キュッと結び終えると目の前に立っている俺の顔を見上げてきた。

「寝れないんでしょ。眠れるオマジナイ。」

「あ…ひかる?」

「ま、ね。」

心がチクッとしたけど、何とか持ちこたえる。
何なの、このもやもや。

「少しは寝れてるからさ、心配しすぎなんだよ。アイツ。」

アイツ。と嬉しそうに言ってからいつもの微笑み方をする。
マジもやもやするわ。

年の差ってやつね
友達の恋愛相談でよく聞いてきたけど、最近じゃ過去の自分に怒りたくなる
『真面目に考えてやれよ』ってね。

今、俺が抱えてんのはそんな悩みよ。
どんなにタメ口にしたり、呼び方変えてみても
なんか掴めてない
どっか手応え感じない。

「でも、オマジナイかぁ。めめも可愛いこと考えんね。」

「可愛いすか?」

ん、と見えない紐で括った手首を擦ってる

バカだな。阿倍ちゃんは。
年下だからってイコール子供じゃないんだよ。
けど、お前よりは知能指数高いわ。とか言いそう。あ、まじで言いそう。
けどさ、もし俺が悪いこと考えてたら笑ってられないんだよ?

「阿部ちゃんさ、以外に純粋だよね。」

「なに、いじられてんのオレ?俺は100%ピュアだよ。」

「だから、ピュアだよねって。」

言われてることわかんないって顔でこちらを見てる。
あざと…

「それ、エアで巻いたの鎖なんだけど。」

「…ナニソレ、怖いジャン。」

あれ、ちょっと怖がってる。
…最近思うんだよね。俺って割と凶暴かもって。
気になる子が、怯えてたり、泣きそうだったりしたら守ってあげたいって思ってた。
基本的には今だってそうだけど。

最近の俺は、たまーにだけど、怯えさせたくなる。
笑わせたいのと同じくらい…かも。


「ねぇ、めめ…?」

「なんすか?」

隣に座って、んなこと考えてたら俺の腕を引き寄せてすげぇ見つめてきた。

「…なに?」

とか言って、今度は俺が怯えてる
この人こーゆぅとこある。負けず嫌いっていうか。ムキになっちゃって。

やり返すみたいに手首になんか巻かれてしまった。

「鎖、すか?」

「そぉ。」

なんか、何重にも巻いてるからずっと見てた。
最後にガチャっと呟いて(こゆとこ、あざとい。)から、あの大きい目で俺の顔をジーっと見る。

「おわり?」

ふふ…って聞こえた気がして、その後に綺麗な形の唇が開いて指先に持ってるふりの鍵を飲み込む仕草をした。

うーわー。。絶句。

「なに飲んでんすか。その鍵ないと開かないすよ。」

「うん。だから、めめは…」

そこまで言って、俺の耳にこそこそと囁いてから部屋を出ていった。

まじ、まいるわ。やべぇ奴を好きになった。
そんなこと言う奴怖いのに、また…俺の知らない俺出てきた。

心を弄ばれたいとか、どんだけ変態なのオレ?

『一生俺の奴隷』

だってさ。
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