小説置き場

□試合
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「貴様ら最近たるんどる!」

ことは尾張城主 織田信長からの一喝より始まった。

先日、信長一行は忍に襲われ、特に怪我も無く帰って来れた。しかしながら情勢は不安定。国内に侵入者を許したのはお前達の職務怠慢だという信長の話しに、耳が痛い思いをしている内蔵助だった。それは内蔵助だけではなく、辺りにいる家臣達もそうなのか、ただただ頭を下げるばかりである。

「これより一対一による試合を行う。勝負に関する制約なしの勝ち抜き戦。試合内容の結果如何によっては減俸を実施する!」
容赦のない信長の声にゲンナリしている一同をよそに、かさねは「私も試合に参加して良いのかな?」と、呑気なものであった。

「何で皆元気無いの?」
「お前・・当たり前だろうが、減俸だぞ」
「ご飯の量減らされるー!」
犬千代は飯の心配だけのようだ。


「働きがよければ上の役職に取り立てる。食い扶持も増やそう。心して励め!」
流石は殿。俺達若手でも上に上がる機会をくれたということかと感心し、俺や犬千代は明らかに気分が高揚していた。
佐々家の中でも三男坊。男にしては小柄で、優秀な兄達には知略では全く敵わない。せめて武芸で上を目指さなければ、この先の未来が無い俺にとっては絶好の機会だった。

犬千代には食い扶持が増えるというお達しに、「絶対負けないぞー!!」と大きく声を上げると、一番手に名を挙げた。
他の若手を意気揚々と薙ぎ払う犬千代を見て、俺も負けてたまるかと試合を始めた。



「何だあの娘!強い!」
本日一番のどよめきが上がった。あのバカ女のことだろう。確かにあいつの腕は立つ。この辺りの若手では太刀打ち出来ないであろうことは、先日の鳴海城での村人救出の任務で十分分かっていたことだった。

見たこともない型を使い、動きも早い。女であるその華奢な腕からは想像も出来ないほどの力でねじ伏せていくあいつに、闘争心が沸いてきた。

「てめぇとは鳴海の時から決着をつけたいと思っていた。俺の出世の踏み台にしてやる。」

「どこからでも、どうぞ」
かさねは木刀を構えると、真っ直ぐな目を内蔵助に向けた。
周りからは「がんばれ娘!」「出世の虫に負けるな!」とヤジが飛ぶ。煩い外野に苛つきながらも、俺は愛銃 ささらを構えた。


ささらは普通の銃ではない。改造銃という存在を知った時から、何か自分にしか出来ない戦い方は無いかと模索したものだ。銃は遠距離にいる敵には強いが、次の発砲までに時間がかかるのが欠点だ。その間に敵に間合いを詰められては、敵の攻撃の方が早く届くことになる。課題は近距離戦にあったのだ。俺は近距離でも戦える銃を模索し、今はささらの型に落ち着いた。
銃は形を変え、持ち手を増やし、トンファーの様な形で思い切りかさねに叩き込んだ。


かさねの木刀には亀裂が入り、流石に驚いた様子であった。
「(普通あの一撃で怯むなりするが・・受け止めるか)」
やはりタダの女ではない。すぐに反撃に出るかさねの動きに、俺も避ける。攻防は続き、両者一歩も引かない状況に試合時間は延長をし続けた。

「お前、出世も録も関係ねーんだから、とっとと降参しろ!」
「嫌だ!私も虎徹達との約束があるもん!」
かさねにも譲れない思いがある。だが俺にも・・・


「俺は、兄上達の上を行く!
殿に認めてもらい、出世して、この佐々内蔵助成政の名を、残す!!」
俺は全力の一撃を叩き込んだ。だがかさねはそれを受け流そうとし、想定外の動きに俺は完全に体制を崩した。勢いは収まらず、目の前にいたかさねを掴んだ体制で物見櫓まで二人でぶつかる羽目になった。

ドォォォン!!!!


内蔵助!かさね殿!
二人を心配する声が上がる。

「・・・痛ぇ」
背中を思い切り強打していた。気づくとかさねを抱き込んだ体制であり、彼女自身は櫓に接触していないことが分かると、少し安堵した。
・・・何で安堵するんだ・・?


「はー、びっくりした。」
かさねからも声が上がる。大丈夫?と心配そうに言う姿に、心の蔵がぞくりとした。
認めたくは無いが、自分はこのアホ女を可愛いと思う時がある。いや、それは身近に女が少ないからであって・・・と自分自身に対して言い訳をしていると、

「よっぽどお兄さんより上に行きたいんだね。お兄さん達も弟の成長、嬉しいだろうね、きっと応援してくれるよ」
と呑気に言うバカ女。
「は?何でそんな事分かるんだよ?」


「分かるよ。私もお姉ちゃんだからね!」
にこり



笑みを浮かべるかさねに、内蔵助はまた心臓の鼓動を早くした。

「危ない!!」
誰かの声が上がると、ガラガラと櫓が倒れる音が始まった。上を見上げると俺とかさねに太い丸太達が落下してくるのが見えた。


ぶつかる!!


回避が間に合わないと思い、かさねの体を強く抱き込んだ。せめて彼女だけでも無事に。。!




ガラガラガラガラ!!!!!!



来るべく衝撃に備えるも、想像していた衝撃は来なかった。
目を開けると、そこには糸目の男が、俺たちを引っ張り上げていた。そのお陰で落ちてきた丸太を避けたのだと理解をした。


「だ、誰?」
かさねが思わず声をかけた。糸目の男はその体制のまま、じっとかさねを見つめていた。
不審に思い、俺も声をかけようとしたその時、

「可愛いお嬢さんがこんなところに居るなんて、、!」
とかさねの手を握った。
その姿に訳の分からない苛立ちを覚えた。


男は信長様の情報屋であり、その名を藤吉郎と言った。初めて見る顔であり、信長様直々に仰っられたため、周りは安堵感に包まれていた。
俺もかさねも幸いにして大きな怪我も無く、これにて試合は終了となった。


ただ、
「(なんでこんなに苛々するんだ・・・?)」

あの後もかさねばかりに構おうとする藤吉郎の姿に、苛立ちがあった。可愛いと、明らかな好意を示すのだ。


釈然としない感情に、ただただ戸惑う内蔵助であった。
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