小説置き場

□出会い
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--心臓がドキドキしっぱなしだ。

あの時は確か、、弟の虎徹がトラックにはねられると思い、咄嗟に動いてしまった。自分は確かに虎徹を掴み、寸前で回避出来たと思う。多分だけれど、、
青色の光に包まれ、気がつけば緑豊かな平原に倒れこんでいた。そこには、トラックも、横断歩道も、つい先程まで近くに居たはずの虎徹もいなくて、一瞬自分--草薙かさね--は天国に来てしまったのかと考えた。

が、侍のコスプレをした男たちに槍を向けられ、訳の分からないままに牢獄に押しやられたのが数時間前。目の前には、やはり着物を着た若い女性たちが手を縛られており、セーラー服を着ている自分の方がその場には馴染んでいないように見えた。



「これって・・夢・・?」
「そうだ、私、虎徹たちと剣道の試合から帰る途中で・・そこから牢屋に入れられるなんて、ありえないもん。うん。」


そう思うと、ほっとした。暫くすれば目が覚めて、きっといつもの慌ただしい朝がやって来る。そう思うと、緊張していた体の力が抜けたようだった。


「あの、。」
ぽん

「うひゃああ!!」

急に着物姿のおさげの女性から、肩に手を置かれ、驚いてしまった。
「ご、ごめんなさい。具合が悪いのかと思って」
「い、いえ。夢のわりに、あまりにリアルに触られたもので、つい。。」


「---夢ねぇ。そう思いたいのも分かるよ」
今度はショートヘアの美人なお姉さんも声をかけてきた。

「私らはこれから売られるんだからね。領主の山口親子が隣国と通じて領地を明け渡しちまった。おかげで隣国の兵士どもが村を襲い、畑も家もみんな燃えちまった。夢と思った方が楽さ」
「うぅ・・」
その言葉に、おさげの女性が涙を流し始めた。泣いているのはその人だけではない。辺りは大きな悲壮感に包まれていた。

「襲われたって、、どうして。。」
「こうなったのも、全部あの うつけ の若殿のせいさ。あんたも、全員もう二度と家族には会えず、敵国に売り飛ばされて死ぬまで働かされるんだ。」


二度と家族に会えない?
弟の虎徹、正宗に・・・
家はじいちゃんに、まだ小学生の二人の弟しか居ない。自分が居なくなって、誰が朝ご飯を作ってやれるのか?両親もすでに他界し、あの子達にまた、辛い思いをさせる?

そんなの・・・


「嫌だ!・・・逃げよう!皆で、ここを脱出しよう!!」
その言葉に、皆驚いた表情を浮かべる。

「な、何言ってんだい!?ここはすでに敵国に占拠された鳴海城だよ!こんな所から逃げられるわけ・・・」
「もしかしたら、生き残った家族が村で待っているかもしれない。このまま、ここに残っても何も出来ないよ。私は・・・家族に会いたい!」




「わたしも・・もう一度、弟に会いたい・・・!」
先ほどまで涙を浮かべていた、おさげの女性だ。わたしも、と女性達が帰るをあげる。

「でも、私ら全員拘束されてんだ。。身動きも取れないのに」
「その気になれば、何でも出来る!!」

ガジガジガシ!!!!!
かさねは自分の手首にある縄を一心不乱に噛み始めた。周りは唖然としていたが、意外と縄の強度は無く、一つ綻べば関節を外せばするりと縄は抜けたのだった。
(ちょっと痛かったけど、、)



「嘘だろ。。本当に噛みちぎるとは。。」
自由になった手で、次々と女性達の縄を解く。ざっと10名程度だろうか。

「さてと、あとは扉だけど」
鍵がかかっていて開かなそうだ。
確かポケットにヘアピンがあったけど、よくこういうシーンで漫画だと開けているよなぁ と思い、鍵穴にヘアピンを差し込んでみた。


ガチャガチャ・・ガチャン!


「あ、開いた!!」

周りから歓声が上がった。あまり複雑な構造では無かったのであろう、上に少し傾けるだけで開いたのだった。


「お前たち・・!一体どうやって牢から・・!!」
すぐに見張りの侍がこちらに駆け寄ってきた。手には刀。このままでは、斬られる。
何か武器はとかさねは辺りを見回し、丁度壁に棒が立てかけられているのを見つけた。

「天井にねずみ!!!」
きゃあと上がる女性達の悲鳴。少し上を見上げる侍。すかさず棒に手を伸ばし、かさねは攻撃体制に入る。


「草薙流抜刀術 一の型 横雲」
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