文ストの短編

□「知らぬは彼女ばかりなり」
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美術の授業中に彫刻刀で指先を切ってしまい、そこそこ深く切ってしまったのか血も中々止まらないので
ハンカチで抑えながら、手当の為に保健室へ行くことにした。

この学校の保健室には寒がりの保険医がいるらしいと聞いている。
今居るかは分からないが、せめて絆創膏だけでも貰いたい。

廊下を歩き目的地にたどり着いては、こんこんと保健室の扉をノックしてから入る。

「すみません。美術の授業中に彫刻刀で切ってしまいまして。
絆創膏を頂きたいのですが・・・」


「おや。大丈夫ですか?
・・・とは云えここには、今ぼくしか居りませんがね。」

仮眠用のベッドに備え付けられた、カーテンの向こうから声が返ってくる。
その声の主はゆっくりとカーテンを引いて現れた。

男子にしては少し長めの黒い髪に、どこか底知れない深い闇のような赤紫の瞳に血色があまり良く無さそうな青白い肌。
見ていると不安になりそうな程細い体躯のその男子生徒は、この学校では知らない人はいないとも言われている。

その名前は―――
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