刀語の短編

□逆トリップの話
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逆トリップ設定
ほぼ会話文
夢主は社会人設定
ブラック企業で現実に対し限界極まってる。

<夢主視点>---------------------


───生きる事も、家に帰ることもずっと億劫だった。

早朝出勤に度重なるサービス残業。
例え家に帰っても、数時間後にはまた出勤。
疲れ切った精神では自炊は無理。なので毎日コンビニごはん。
友人にも家族にも、誰も頼れない。正直つらい。つらすぎる……。


……となっていたのが数か月前の話。

今はそこから少し楽になった。
何故かというと、家事を担当してくれる同居人?居候がいるからだ。


名無しさん「……それにしても。
こうも馴染むなんて。」

左右田「理解不(りかいできず)。
何をぶつぶつと独り言を言っている。

夕飯が出来ているから、食べるなら席に座れ」

名無しさん「はい、すみません。頂きます。
……左右田さん。」

何だかんだ言いつつもご飯を作ってくれている、この人は左右田さん。
「左右田右衛門左衛門」
なんだか早口言葉のような名前だが、
まぁ本人がそう言うので仕方ない。

左右田さんに会った、いや出会ったのは数か月前の夏の日。
いつものように色々擦り減って夜遅くに帰って
明日は一か月ぶりの休みだった。

名無しさん「ただいま〜…………って
誰もいないけど。

……あれ?」

部屋の扉を開けると、部屋の隅に座り込んで血を流す赤髪の男性がいた。

不審者……にしては、何か特徴的な恰好だけど。
仮面付けてるし、ポニーテールで洋装と和装が8:2な感じの格好だ。
知らない男の人が家にいるなんて思わなくて、一瞬で私は固まった。

名無しさん「ひ、人……?!
(ど、どうしようまず救急車!?
いやでも知らない人が家にいるんだから、まず警察!?)

……あ、あの、貴方は?」

?「…………。」

近寄って声を掛けても意識も応答も無い。
慌てながらも、ひとまず手当をする。
お願いだから血が止まって欲しい。
帰ったら知らない人がいて、訳が分からないままに死んでしまうとか正直夢見が悪すぎる!!


手当が終わった後、彼の呼吸が少し安らかになったのを確認しては
何か視界の端で煌めいた何かを見つけ、思わず手に取る。

名無しさん「……これ、何だろう。鏡?」

彼の側には、小さな鏡のようなものが落ちていた。繊細な細工の施されたそれは、手のひらにすっぽり収まる大きさではあるが、安物では無いだろう。
この人の所持品だろうか。ひとまず踏んで壊さないように、拾ってポケットに入れた。


その、私にはただの鏡に見えたそれは。
天才刀鍛冶の四季崎記紀が生涯で作った1000本の「変体刀」であり
その中でも特に完成度が高く、極めて特殊な機能を持っている十二本の刀が「完成形変体刀」。


・・・に類する、「人には知られてないだけで存在はする」隠されたものの一本。
「界刀・『盾』」(カイトウ・ジュン)だった。

まぁ、異世界の事なんだから知らなくても当然な気はするけど。

その後、回復した左右田さんに事情を聞くも
何も分からない。
記憶はある。名前も分かる。

変体刀の持ち主に傷を付けられてしまって、意識を失った後、気が付いたら私に介抱されていた。

島に居たはずなのに、此処に居た理由は分からないような状態。

このまま警察に引き渡すのも酷だ。


そして左右田さんも、それなりに私に恩義を感じているらしく
手の回ってない家事などを自分がやろうと提案してくれた。

人との関わりが希薄で、激務のせいで家では何もできない私にはその提案はかなり願ってもない事だった。

今では無くてはならない程に、この人がいる日常が。くだらないことを言って否定されるこのやりとりが当たり前になってしまった。


・・・そんな感じで、
一宿一飯の恩義と命の恩人になってしまい、
あまつさえ好意も抱いて今に至る。
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