刀語の短編

□雨の日、夏服、前日譚。
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『ふーん。』「なんだ」
『いや、見てみたいなと思って。左右田の夏服。
やっぱり洋装なの?いや君が半袖の洋装とか着るの想像できないけど・・・。』

「・・・気になるか?」『まぁ、そりゃあね。』
「なら、今度着てやろう」『え、いいの?』

くるり、と名無しさんは振り向いて右衛門左衛門を見る。
洋装以外の、恋人の珍しい私服姿が見れるかもしれないと目を輝かせた。


「いいぞ。ただし」
『・・・ただし?』
ふと、雲行きが怪しくなる。それは外の、ではなく。話の方の。

「その報告書を書き終わったらな」

ずびし、と右衛門左衛門が指差したのは名無しさんの書きかけの報告書。
やはり今回も相手の方が一枚上手だったらしい。
仕事と任務と否定姫に忠実な従僕は、誤魔化されてはくれなかった。

『・・・はーい。分かったよ』
「それと」
仕方ないと気は進まないが再び取り掛かり始めると、左右田から声を掛けられる。

『それと?』
むすっと不機嫌そうに首だけ振り向いて、名無しさんは言葉の先を促す。


それに対し右衛門左衛門はこほん。と珍しく咳払いを一つしてから

「確か、明日城下町の方で秋祭りがあるはずだ。
そしてその日は、貴様も私も任務はない。
それに、祭りとくれば名無しさんの好きそうな出店も出るだろう。

その報告書を今日中に仕上げたら、夏服を着て一緒に行ってやらん事もないが。


―――どうする?」

平然を装いながらも、仮面では隠し切れない頬と耳の赤み。口調の端々に照れと期待と感情を込めながらそう言い放っては、試す様に名無しさんをじっと見る。


『っ、頑張って終わらせるから!
えっと、その・・・・

く、首洗って待ってろ!!』

それに対し、こちらも思わぬ誘いと相手の表情に顔を真っ赤に染めては、照れ隠しか若干物騒な事を言いつつも、背を向けて。報告書という敵を打ち倒す為に筆を取る。


「・・・ああ、楽しみにしておこう。」

その背を眺めながら、右衛門左衛門は微かに微笑んだ。

そして、相変わらず報告書に頭を悩ませてながらも文字を綴る恋人を愛おしそうに眺める。

終わったら、茶の一つくらい淹れてやるか、と。



〜完〜
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