刀語の短編

□髪結われて君思ふ
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(左右田視点)
ある日私は任務の最中に奇襲を受け、軽いものだが手に怪我を負ってしまった。
なお怪我は軽かったので、戦闘行為に大した支障は出ないはずだが、後ほど姫様に報告と謝罪をした。
とっさのことで対処しきれなかったのは、私の不徳の致すところだ。
利き手ではなかったのが不幸中の幸いというやつだろう。
しかし、それは幸いだったのかもしれないが、それはまた別のものをはらんでいた。

・・・確かに任務に支障は出なかった。が、別の所に支障が出てきてしまった。
それは、朝の支度の方に。

「・・・、不結(結べず)。」
鏡の前で困惑する。まさか、こちらに影響が出るとは思っていなかった。
もはや体の一部と言っても過言ではない「不忍」の仮面をつけたまま困惑している。

とはいえ、任務に支障をきたすのは本意ではないので、私は定刻通りに姫様の元へ向かった。

「ふぅん。そう。髪結べないのね。
・・・まぁ、仕方がないんじゃないの?」

「大変申し訳ございません。天井裏とはいえ姫様の前で、このような・・・」
「いいわよ別に〜。ただ、次から気をつけなさいよ〜」
「・・・はい。」

謝罪も終わり、自室の方へ向かいながら私、左右田右衛門左衛門は思案する。
髪が結べずにおろした状態でも姫様は特に気にはなさらないようなので、私はほっと胸をなでおろしたが、別の方で問題はまだ残っている。

・・・落ち着かないのだ。
ほぼ常に同じ髪型で過ごしていたせいか、髪を降ろしているとひたすら気が散るというか、しっくりこないというべきか。
とにかく違和感に困惑してしまう。

かといってこのようなことで姫様にお願いし、お手を煩わせるという訳にもいかず。
さて、どうするか。と考えていたら前方から声をかけられた。
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