尾形と杉元
「ん〜……」
かれこれ数分ぐらい左目を掻いていた。痒い。あんまり掻いちゃいけないのは分かってるけど、痒い。じっと座っているのも退屈で立ち上がってみても痒いものは痒い。
みんな早く狩りから帰ってこないかな。なんて思ってたら足跡が近づいて来た。
左目をいまだにこすりながら音のする方を見ていれば獲物を片手に尾形さんが帰ってきた。
「尾形さんおかえりなさい」
「あぁ……。目、どうかしたのか」
「う〜ん、さっきから痒くてさぁ」
と擦っていたら勢いよく左腕を掴まれてびっくりしてしまった。
なんで掴まれたのか分からなくてじーっと尾形さんを見つめてたら、怪訝そうな顔をして私の腕を掴んでいた手の力を少しだけ緩めた。
「……こすりすぎだ。赤くなってる」
「だって痒いんだもん」
「だもんじゃねぇ。見せてみろ」
腕を離した尾形さんは、今度は私の頬に手を添えて、まるで眼医者さんがするかのように親指で下瞼を少し引っ張ると、私の左目を覗き込んだ。
あー……、尾形さんまつ毛長いなぁ。
「なんか入ってる?」
「まつ毛だな。取ってやろうか?」
「うんお願い」
一瞬の間も置かずにお願いしたら、尾形さんが肩でため息をついた。なんでかな。
眼球を傷付けないようにそっと指を伸ばされる。しばらく縁をなぞったあと、尾形さんの指が止まった。
「……? 尾形さん」「なっっっっっにしてんのぉ!?」
「あれ佐一くん、おかえり」
「ただいま!で!今!尾形と二人で!!何してたの!」
取れたかなと思って訊こうとしたら佐一くんがすごい勢いで帰ってきた。なんでそんな焦ってるんだろう。
「何って……、目に入ったまつ毛取ってもらっただけだよ?」
「ホント!?」
「ホントだよぉ。ね、尾形さん」
いつのまにか私の頬から離されていた尾形さんの手と取って代わるように両肩を掴まれて揺さぶられる。脳震盪起こしちゃうよ。
私が尾形さんに同意を求めたら、無言で人差し指を立てた。
そこには確かに一本のまつ毛が乗っかっていた。
「ね?」
「あっ、ははっ……、そう……、よかった……」
「なにが?」
「ははぁっ。な〜るほどなぁ杉元〜」
「尾形はちょっと黙ってろ!」
私の疑問に答えてよ〜。
なぜか安堵の息を吐く佐一くんと、それを見て悪い笑顔を浮かべてる尾形さん。尾形さんの言葉に顔を真っ赤にしてる佐一くん。
よく分からないけど、とりあえず……。
「けっ、喧嘩はダメだよ?」
「っ〜!わかっ、てる……!」
「ははっ」
「チィッ」
尾形さんが珍しく楽しそうでなにより。
佐一くんはよく分からないけど、私も左目の痒み治ったし、アシリパさんも帰って来たし、空腹を満たそうよ。
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