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□猫になりました
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寝て起きたらボクは猫になっていた。
ミーミー鳴きながら兄弟だろう他のモフモフに囲まれ。
争奪戦を勝ち抜き、一緒懸命母乳を飲み。
漸く目が見えたとき、真っ先に目に入ったのは、小さな黒い前足とプニッとしたプリティーな肉球だった。
人間だった記憶がうっすらとある。
が、あぁボクの前世は人間で、死んだんだなぁ……くらいで、悲しくなるほど覚えている訳ではない。
よちよち歩けるようになった足で、近くを探索してみると、ボクたち親子は、大きなお屋敷の庭に間借りしているらしい。
お屋敷を眺めていたら、あまりの大きさに仰け反り過ぎて、コロンと転がってしまった。
近くで執事らしき人が、悶えながら地面をバンバン叩いていたが大丈夫だろうか?
それから暫くたった頃、ボクは一匹になってしまった。
ミーミー鳴いて探すが、母猫も兄弟たちも出てこない。
元人間のボクに母猫は違和感を感じていたのだろう。
引っ越しに置いていかれたのだ。
猫の世界はシビアだ。
喰い殺されなかっただけ、ましなのだろう。
途方にくれながらミーミー鳴いていた時……
「おや?あなたはあの時の……」
ボクを見つけてくれたのは、あの執事さんだった。
*
屋敷の主人に内緒で、執事さん――セバスチャンさんはボクを飼ってくれる事になった。
ボクは名前という名前を貰った。
暫く一緒に過ごす内に、ボクが人の言葉を理解している事に気付いたらしい。
ボクはハンカチや手袋など、軽い物を持ってくるよう指示され、ボクが引きずらない様に運び手渡すと、褒めてくれた。
それからまた暫く経ち、ポンっという煙と共に、何故かボクは人間になっていた。
「…………」
『…………』
此れにはボクも、セバスチャンさんもびっくり。
鏡を見ると、黒い猫耳、しっぽの3歳くらいの姿が写っていた。
『くしゅん!』
「取り敢えず、急ぎ服を用意しましょう。」
ボクがくしゃみをすると、セバスチャンさんは部屋を出ていった。
戻ったセバスチャンさんに服を着せてもらい、初めて部屋を連れ出され、やって来たのは屋敷の主人だという人の執務室だった。
「坊っちゃん、少し宜しいでしょうか?」
扉をノックし返事を待ってから、セバスチャンと共に中に入った。
屋敷の主人だという人は、12、3歳程の子供――シエルだった。
「セバスチャン……なんだ、そいつは?お前の趣味か?それとも、お前の仲間か?」
猫耳、しっぽの幼児を連れたセバスチャンに、苦い顔をして訊ねるシエル。
「自室でコッソリ、仔猫を飼っていたのですが、何故か人の姿になりまして……お屋敷で雇って頂けないかと。」
「……………は?」
「この子――名前は、猫だった頃から頭が良いので、仕事も直ぐに覚えるでしょう。まずは私のサポートとして………」
「待て!セバスチャン……。お前、僕の猫アレルギーを忘れてないよな?」
シエルが云うと、セバスチャンは名前を抱き上げ、ずいっとシエルの前に突き付けた。
見つめ会うシエルと名前。
シエルのくしゃみが出る様子は無い。
「坊っちゃんは名前には、アレルギー反応が出ない様ですが?」
その後も、シエルとセバスチャンが言い争っていたが、シエルがセバスチャンの口に敵う筈がなく、名前が採用されることになった。
その後日から、後を雛鳥の様に着いてくる名前の姿。
他の3人の従業員の暴走を止めようとして失敗し、へにょんと耳を垂れて、自分のしっぽを掴み御免なさいする名前の姿に、セバスチャンが悶える様になるのは云うまでも無いのだった。