main

□ 蜂蜜と祈祷師
1ページ/4ページ



「アオイよく聞け。俺らの仕事はただの人殺し、誇れる事なんてねぇんだ」



記憶にあるのは、兄の大きな背中と
生暖かい鉄の匂い

ある程度の分別はつく年齢だったが、
絶対的な存在であった兄からの言葉は
嫌にリアルにこびりついている



「……ぜっっっったい写真家のせいだ。変なこと聞きやがるから」



冷水で顔を洗い、水の滴る自分の顔を鏡に写す
目の下のクマは一段と酷く、顔つきも全体的にブサイク…それは元からか?

あれから部屋に戻り
ひげさんを抱えて眠れたのはよかったが、久しぶりに昔の夢を見た

できれば忘れたいような夢だった



「…分かってるよ兄さん。私は正義の味方じゃない」



左胸の傷に手を添えた
大きく深呼吸をし、目を閉じる
少し疼く左胸

窓を大きく開け放ち、朝日を全身に浴びていると隣から笑い声が聞こえた



「今日も元気そうだな、アオイ」
「おはようパトリシア。昨日もきゅうりパックしてたの?なんか目が綺麗」
「本当か?それは嬉しいな」



この荘園の女性陣は美意識が高い
ウィラとかもう消えそうだもん、儚げすぎるでしょ
かくいう私もなんやかんやお手入れはきちんとしている…つもりだ



「準備出来たら一緒に朝ごはん食べに行こう。マーサ達もいるだろうし」
「うん!あと15分くらいで出来ると思う!」



急いで化粧を済ませ、予定の時間に部屋を出ると丁度パトリシアも同じタイミングだった

並んで食堂に入るとトレイシーが元気に挨拶してくれる
今日はトレイシーとロイさんが炊事当番らしい

スープを受け取り座る席を探していると、急に腕を引かれた



「おはよアオイ」
「お、はようございます ノートンさん」



相変わらずどこか不機嫌そう
ノートンさんは私の腕を掴んだまま空いている椅子に引っ張る
一緒にいろと言うことだろうか?



「…邪魔する訳にはいかないな。アオイ、ごゆっくり」
「あ、ちょ、パトリシア……!」



ススス…と逃げていく
その後ろ姿に空いている方の手を伸ばすが、もちろん届かない

ノートンさんは素知らぬ顔でパンをかじっている



「……いただきます」



観念して大人しく隣に座った
満足したのか、ようやく腕が開放される

スープを飲み終わる頃には、食堂内はかなり賑わってきた
でも私たちの周りに人は寄ってこない
それは多分、隣の彼の発するオーラのせいだろう



「……目ぇ怖いですよ」
「二人の時間邪魔されたくないから」
「……そうですか」



静かにコーヒーを飲んでいる
その姿をかっこいいと思ってしまったため、むせ込んでしまう
ゲホゲホしている私の背中を大きな手で優しく撫でてくれるノートンさん

やはりどこか、兄さんに似ている気がする
次へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ