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□ 蜂蜜と祈祷師
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食堂に人はいなかった
皆試合に行ったようだ

ふつふつと沸騰しているポットのお湯
ひたすらそれを見つめる


考えていたのは兄さんの事
そもそも私が荘園にやって来たのは、兄さんの手がかりか掴めるかもしれないから

でも何故今このタイミングで?
失踪して、かなり時間が経っているのに



「沸いてんぞ、ソレ」
「ひぇ!?」



突如聞こえた声に、思わず変な声が出る



「驚きすぎだろ」
「ごめんなさい…」



急いで火を止め、声の聞こえた方に顔を向ける
少し気まずそうなナワーブさんが立っていた



「あ、えと、ありがとうございます」
「ぼーっとしてたけど大丈夫か?」
「ちょっと考え事を……紅茶飲みます?」



今ここにいるという事は、試合ではないんだろう
尋ねると首を縦に振ってくれた

お湯を注ぎ、舞っている茶葉を2人でぼーっと見つめる



「あの、ナワーブさん」
「ん?」
「…………怒ってます?」



ずっと心に引っかかっていた事
昨日イソップくんは軽く笑っていたが
やはり無視されるのは寂しい

私が意図している事は伝わっているようだ
ナワーブさんは頭を掻いた



「あー…怒っては、ねェけど」
「…ねェけど?」
「よく分かんね。お前、ノートンともあんな事してんのか?」
「へ?ノートンさん?」



なぜその名前が出てきたのか謎だけど
ナワーブさんの目は至って真剣だ



「してないですけど…なんで?」
「だって朝よく一緒にいんじゃん」
「あれは強制的というか…ノートンさんが腕を離してくれないから」



茶葉が下に沈んだため、カップに紅茶をゆっくり注ぐ
蜂蜜を入れたものをナワーブさんに差し出す



「なに、私と一緒に食べたかったんですか?素直に言ってくれればいいのに」
「ばっ…そんなんじゃねーよ!興味だよ興味!熱ッ!!!」



そりゃ熱湯だからだよ、と笑うと涙目で私を睨んでいる
よほど熱かったのか舌を出している
その仕草が妙に色っぽくて



「あん時、舌入れときゃよかったかな」
「…は?」
「えっ?」



ひげさんくらい目を丸くして驚いている
私も多分同じ顔をしているだろう



「……声に出てた?」



恐る恐る聞くと、ゆっくり頷かれた
まじか、心の声で留めておくつもりだったのに…



「っあー、忘れてクダサイ…」



自分の行動に恥ずかしくなり、頭を抱える
ナワーブさんは黙ったままだ

しばらくの沈黙
ああ、多分とんでもない変態と思われてるだろうな…と天井の装飾を眺める



「……するか?」



沈黙を破ったのは、そんな意外な言葉だった
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