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□納棺師と祈祷師
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「じゃあおやすみなさい」
「おやすみ。付き合ってくれてありがとうね」



あれからイソップくんと話しながら、お酒をさらに2本飲んだ

ほろ酔いで気分が良くなったが、イソップくんは掃除当番で朝早いらしく
これ以上付き合わせるのも申し訳ない
「大丈夫ですよ」と言う彼に、また付き合ってもらうよう約束した



(…なんとなく、まだ寝たくないなぁ)



夜は苦手だ
目を閉じるのが怖い
そのまま闇に呑まれてしまいそうで



「……?」



ふい、と窓の外を見ると何かが動いた気がした
方向からして、中庭の噴水辺り

もしかしたらイライさんとポッポちゃんかもしれない
登りかけていた階段を早足で降り、そのまま中庭へと繋がるドアを目指した














夜は苦手だ
目を閉じるのが怖い
そのまま闇に呑まれてしまいそうで



(いっそ、呑まれてしまえば良かったのかもしれないが……)



月明かりがないぶん、星は綺麗に見える
それがせめてもの救い
ああ、この満点の星空を永遠に保存できるなら…



「…貴女と一緒に見るのも悪くないだろうね、祈祷師」



そう声をかけると、噴水の影から現れる



「………なんでバレてるんですか」
「君にはなにか妙な空気が漂っているからね。すぐに分かるよ」
「妙な空気て…」



試合の時とは違い、結わえた髪をおろしている
芸者のような服装をしているし、東洋人か?

よいしょ、と私と距離をとりベンチに座っている
手にしている酒瓶については、触れない方がいいのだろうか…



「慣れたかい?ここでの生活は」
「ええまぁ…まだお会いしてない方もいるとは思いますが」



酒瓶に口をつけ、こちらを見ている



「ハハッ、きっとすぐに会えるよ。みんな祈祷師に会いたがってるから」
「吊るしたがってる、でしょ?写真家さん同様に」
「よく分かってるじゃないか」



今後の試合、ジャックは祈祷師を必ず指名すると意気込んでいた
敵対心を抱いているようだが、何故かは知らない

隣で足を組み、酒瓶を傾けている祈祷師 不思議と惹かれるものがある
それは彼女の醸し出す妙な空気と何か関係があるのだろうか



「…祈祷師って、どんな職業なんだい?」



思わず直接的に聞いてしまった
その質問に彼女はゆっくりと立ち上がり、艶やかに私を見下ろした



「ただ祈る事しか能のない仕事ですよ?例えば余計な詮索はしないで下さい、とかね?」
「…野暮な質問だったね、すまない」



艶やかに笑う表情とは裏腹に、目には冷たい殺気が宿っている
年端もいかないような小娘に出せるようなものでは無い



「冷えてきたしもう戻ります。写真家さんも、風邪引きますよ」
「…ああ、そうだね。戻るとするよ」



至って普通の様子で館に入っていく祈祷師
その背中を見つめ、先程の目を思い出す

この荘園には、ハンターサバイバー関係なくそれぞれ事情を抱えた者ばかりだが
彼女も例外なく、なにかあって荘園へやってきたのだろう
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