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□睦言
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ぱたり ぱたり

暗闇に滴る水音がする。
また漏れてる。この部屋の水道、蛇口の締まりが悪くて困るんだわ。

耳につく水音に起こされたエルマは不機嫌そうに重いまぶたを持ち上げた。そして眼前に広がる黄金に目を瞬く。

「……きれい」
「……くすぐったいです、エルマ」
「ジョルノの髪、きれい。好きよ」
「髪だけ、ですか?」

エルマは後ろから抱きついた格好で寝ていた男の長い金の髪をくるくると弄った。眠っていたらしい彼は彼女の気配に目を覚まして身を捩り、くるりとこちらを向いた。

「そんなことないって知ってるくせに」
「生憎僕は察しが悪いのでちゃんと言ってもらわないと分かりません」

くすくすと笑いあいながらじゃれあう。こんな時間が一番好きだとエルマは思った。

ギャング組織パッショーネのボスである彼がエルマ部屋に来るようになって久しい。きっかけなんて忘れてしまうほど、気が付いたら出会っていて惹かれていた。

「天気は?あら、曇ってる」
「じゃあもう少し寝ていましょう」
「じゃあって何よ」

ベッドから見える窓の外は曇天が広がり今にも雨が落ちてきそうな暗さを見せている。起き出そうと起こしたエルマの半身は引き摺り下ろされて再びジョルノの胸の中に収まった。

「いいじゃあないですか、僕は眠い」
「まあね、曇りの日は眠いけど」

素肌が触れ合う温かさにエルマもジョルノの背に腕を回した。とくんとくんと聞こえるリズムに耳を傾けているとパタパタと窓を叩く雨音がそれを邪魔する。

「あーあ、降ってきた。ボス、今日のご予定は?」
「ボスはやめてください。今日の僕はあなたのジョルノです、エルマ」
「ほんと?じゃあ雨が止んだらお買い物に付き合って」
「止まなかったら?」
「それでもお買い物に付き合って?」
「結局行くんじゃあないか」

くつくつと可笑しそうに肩を揺らすジョルノは年齢相応の笑顔でエルマ一緒に笑い出した。

「そうよ、私たちは水溜りも物ともせずに買い物に出る勇敢な戦士なのです。じゃないと冷蔵庫が空っぽなの」
「それは困りましたね」

聞いた途端にジョルノのお腹がくうと鳴り、二人はまた笑い転げた。

「ビスコッティとカフェラテはあるから安心して」
「良かった。ここで飢え死にするところでした」
「そしたら私、ミスタにこっぴどく叱られちゃうわ」

笑いすぎて滲んだ涙を拭いながら、今度こそエルマはベッドから降りた。

「ただいま朝食の準備を」
「待って、僕も一緒に」

ぽかりとあいた傍の隙間に、慌ててジョルノも彼女の後を追う。ひとつキスをして二人は仲良くキッチンに消えていった。



「ねえジョルノ、この蛇口直せない?」
「さすがに僕にはちょっと……いっそ引っ越しませんか?

僕のところへ」

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