Short

□Con te per sempre
1ページ/1ページ


さっきまでの余韻を残す身体を横たえて彼の胸に寄り添う。あんなにあつくてたまらなかったのに、今は引いていく熱が寂しくてたまらない。

「どうしてそんな悲しそうな顔をするんだ?」
「そう?」

ブチャラティの真っ直ぐな青い瞳が私を見つめて不思議そうに細められる。
何でもないのに、と言って彼の胸に顔を伏せた。

ねえ、私はあなたに抱かれるたび、いつかあなたが私に飽きてしまう日が来るかもしれない事を覚悟しているって言ったらあなたはどんな顔をするかしら。




「ブチャラティ、Ciao!」

翌日は二人とも休日だったから買い物に行こうと街に出たところで声がかかる。振り向けば女の私から見ても綺麗でスタイルの良い女性が彼に手を振って近付いてきた。

「久しぶりだな。最近はどうだ?」
「おかげさまで、何とかやってるわ。……こちら、今の彼女?」
「ああ、エルマだ」
「こんにちは」
「へえ」

ああまた。彼女の視線が値踏みするように私の頭のてっぺんから爪先まで眺めてから小さく笑った。

「ずいぶん可愛らしいのね」
「だろう?」

その声音からちくりと刺さる彼女の言葉を言葉通りに取ってブチャラティは笑う。こんな時私はどんな顔をしたらいいんだろう。分からないから曖昧に微笑んで二人の話が終わるのを待った。
ブチャラティと歩けばこうして声がかからない日はない。だって彼は素敵だから。街のみんなが頼りにしているから。
優しい彼は声をかけられればこうして立ち止まって話を聞いているのだ。

「じゃあね。またお茶でも飲みましょう」
「ああ」

私には一瞥もくれずに彼女が去っていった。

「時間を取らせたな、すまない」
「ううん、行きましょう」

他の女と話して私を放っておいたと怒ることも、寂しかったわと甘えることもできずに私はただ黙ってブチャラティの隣で歩き出す。そっと繋がれた手のあたたかさだけに縋っていた。



「一緒に暮らさないか」

私の部屋で簡単な夕食を取りながらブチャラティがポツリと言った。彼にしては弱々しいトーンで、しかも目を逸らしながら。

「うん……考えさせて」

私は俯いてチーズをフォークでつつきながら返事をした。本当は嬉しいのに、素直に喜べない私がいる。
だって生活を始めてしまったらきっと彼はすぐ私に飽きてしまうに違いない。今のまま、たまに会うくらいが一番いいんじゃあないかしら。

「どうして君は」

カタンとカトラリーの置かれる音がしてブチャラティの小さな声がした。顔を上げると見た事のないような苦しげな表情の彼がいる。

「オレが嫌になったのか?」
「どうして、そんな事言うの?」

多分街の人は見た事がないであろう、ブチャラティにこんな顔をさせているのが私自身だということに気付いて胸がドキリとした。

「もうオレに興味がなくなった?」
「そんな事ない、好きよ。大好き」
「じゃあなんで……!」

少し上がったトーンに私がビクッとすると、ブチャラティははっとしたように手で口元を押さえて顔を背けた。

「すまない、君の事となると冷静じゃあいられなくなっちまう」
「ブチャラティ?」

小さく名前を呼べば彼はそっと私を伺ってから口を開いた。

「明日にも君がオレよりいい男に捕まって、オレから離れていってしまうんじゃあないかって不安でたまらねえんだ」
「そんなはずないって知ってるくせに。私もてた事ない」
「知らないのか?君を狙っている男はごまんといるんだ」
「嘘、声をかけられたことなんてないわ」
「オレが牽制してるからな」

ブチャラティも不安に感じたりしてたって?
にわかには信じがたい言葉にぽかんとして彼を見ると少し得意げに笑っている。それを見たらたまらなくなって、私はとうとう心にしまっておいた本音を口にしてしまった。

「どうして私と付き合ってるの?」
「エルマ?」
「だって、だってあなたなら今日みたいに素敵な人といくらだって付き合えるじゃない。私なんて、あの人に比べたら全然綺麗でもないしスタイルだって良くないし……いつかあなたに飽きられてしまわないか怖いの。一緒に暮らしたらきっと私なんてすぐに飽きちゃうから、だから……」
「そんな風に思ってたのか」

ブチャラティは椅子を立つと私の隣に跪いて私の手を握った。

「愛してるエルマ。君だけだ」
「ブチャラティ」
「妬きも甘えもしねえから、もうオレに興味がなくなったのかと思ったぜ」
「そんな事……めんどくさいって思われたくなかったの」
「恋人のやきもちくらい受け止めきれないようじゃあ男じゃあねえな」

少しホッとしたようにブチャラティは微笑んで、それからまた、今度はしっかりと私の目を見てさっきの言葉を紡いだ。

「ずっとそばにいて欲しい。一緒に暮らそう。返事は?」
「Siよ。ほんとね?私けっこう甘えん坊かもしれないわよ?」
「構わないさ、むしろ大歓迎だ」

ぱあっと笑顔になってから、ブチャラティは悪戯っ子のように上目遣いで私を見た。

「Siって言わなかったら拐ってでも捕まえとくつもりだった」
「え、怖い」
「忘れたのか?オレはギャングだぜ」
「そうでした」

くすくす笑えば手を引かれて椅子から落ちそうになる。そのままブチャラティの胸に閉じ込められて、キッチンの床に二人座り込んだまま口付けを交わした。
私を抱きしめる腕の強さに、口付けの熱さに、彼の愛を信じたいと思えた。

Con te per sempre
〜あなたと共にいつまでも〜
.


次の章へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ