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□紫陽花
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イタリアの紫陽花は風情がない。
二人で出かけた時、歩道の脇に咲いている紫陽花を見てそんな事を言うからオレはエルマを振り返った。

「ジャッポーネじゃあこの季節は雨続きなの。憂鬱だけど、しっとりして蒸し暑い空気の中で咲く紫陽花が好き」
「そうかい」

確かにここじゃあカラッと初夏の陽が照りつけて紫陽花も鮮やかな色合いで咲いている。それが当たり前で育ったオレとしてはジャッポーネの紫陽花とやらに興味が湧いた。

「いつか観に行きたいものだな。アンタの故郷に、紫陽花を」
「行きましょう、雨に濡れた紫陽花は綺麗よ」

そう言って笑った エルマの瞳は強い日差しを受けて宝石のように煌めいた。その輝きにくらくらして、少し先を歩く彼女を思わず腕の中に抱きしめる。

「レオーネ?」
「アンタも綺麗だ」
「な、何言ってるの!ほら、行こう」

恥ずかしがりの エルマはオレの背中をぺしぺしと叩いて逃れようともがく。赤くなった頬を捕まえてちゅっと軽く口付けを落としてから彼女を解放した。

「愛してるぜ エルマ」
「私も……レオーネ愛してる」

真っ赤な顔で小さく呟いてから エルマはオレの手を取った。その小さな手をしっかり握ってオレたちは歩き出した。

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