Short

□gelosia
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カレンダーに控えめにつけた丸を指でなぞってエルマは微笑んだ。
普段忙しい恋人が、この日は都合をつけてくれると言った彼女の誕生日。それは今日だった。

「食事に行こうか?」
「でも何時になるかわからないでしょう?うちに来て。」
「悪いな、そうさせてもらうか。」

仕事があると聞いていたから、と提案したエルマに、電話口でブチャラティはすまなそうな声を出した。

「買い物に行こうかな。」

自分と彼の好物を作ろう。そう考えたエルマはバッグを手にスーパーへ向かった。

買い物を終えてエルマがのんびり歩いていると、交差点の向こうに大きな車が止まった。車から出てきた人物は彼女の見知ったシルエットで思わず顔が綻ぶ。

「ブローノ?」

思わず近付こうと歩みを早めるエルマだったが、車を回ってブチャラティが開けたドアから出てきた人物を見て足を止めた。

遠目でもスタイルが良く豪華そうなドレスを身をつけた女性。その人がブチャラティの腕に自らの腕を絡めてしなだれかかっていた。
何事か話し合って笑い合う二人は恋人同士のようにとても絵になっていて、エルマはすうっと血の気が引くのを感じた。
そのまま彼らが高級そうな店の中に消えていってもエルマはしばらくその場から動けずにいた。




買ってきたものを整理して台所に立つ。
朝のうきうきした気持ちとはまるで反対の気分でエルマがのろのろと始めた調理はなかなか進まなかった。

「仕事って言ってた。」

自分の気持ちを整理するかのように独りごちるエルマは野菜を洗いながら先ほどの光景を思い出していた。

「今日は時間作ってくれるって言ってた。」

ブチャラティの愛を疑う訳ではない。自分にくれる優しさに嘘はないと信じていた。しかし彼は誰にでも優しいのだ。

「……綺麗な人だったなあ……。」

自分の格好を見下ろしてエルマはため息をついた。どうしてブチャラティが自分と付き合ってくれているのか時々わからなくなるくらい平凡な女だと自覚していたから。
仕事上のエスコートだったとしても、あんな女性に本気になられたら自分なんか勝ち目がないと勝手に不安になって落ち込んでいた。

なんとか予定のメニューを作りテーブルに並べて、エルマはソファで丸くなっていた。あの人に負けないくらいおしゃれをしてメイクを直そうと思ってはみたものの、なかなか体が動かなかった。

「ブローノ早く来て。」

早く彼に抱きしめられたい。安心させて欲しい。クッションを抱えてため息をつく彼女の心のように、外はだんだん暗くなっていった。

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