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□ナイトメア
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ガクンと階段を一段踏み外した感覚で目が覚めた。

心臓はどくどくと早鐘を打ち背中には冷や汗が伝う。内容は覚えていないものの、悪夢を見ていた名残に喉がひりついて私は大きくひとつ息を吐いた。

「……ミスタ?」

明け方の空気は冷たくて、大きく吸い込むと身体が震えた。心細さに背中側にいるはずの恋人を呼ぶが返事はない。

時間が時間だ。まだ熟睡しているのだろう。寝返りを打って彼の方を向くと、何とも呑気な寝顔が見えた。
何も悩みがなさそうな健やかな寝顔に妙に腹が立って、私はミスタの鼻をきゅっとつまんでみた。

「っんがっ!?」
「ぶふっ!!」

突然妨げられた呼吸にミスタが変な声を出したから、私は思わず吹き出した。自分に起こった異変と私のその声に、とうとうミスタが目を覚ました。

「あ?エルマ?どした〜。」
「ん〜、何でもない。目が覚めた。」

寝ぼけた声で半目で私を見つめるミスタの胸に擦り寄ると、そっかそっかと素直に私を抱き寄せて頭を背中を撫でてくれた。

「エルマにはミスタ様がついてるからなあ〜、安心して寝ていいぞ〜。」
「ん。」

まだ半分夢の中にいるような間延びしたミスタの声だったが逆にその声に安心感をもらった。神様に愛されているラッキーボーイの彼がいれば私の悪夢も消えて無くなりそうな気さえした。

「ありがとミスタ。Ti amo。」
「Ti amo エルマ。」

きゅっとしがみつけば優しい力で拘束されて熱い口づけが降ってきた。触れ合う唇から肌が粟立つような快感が走る。あっという間に私の頭の中はミスタでいっぱいになって、さっきまでの怖さも寂しさも押し出されていく。
私は彼がくれる快楽にひたすら溺れていった。

私たちがベッドを出たのは結局すっかり日が高くなってからだった。

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