Short

□fiore
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フワリと花の香りがした。
よく知った、そして大好きな香りに顔を上げると、今まさに僕の前を通り過ぎて行ったのは予想とはまるで違う人物だった。

「……ブチャラティ?」
「どうしたジョルノ、何か?」
「あ、いえ。何でもありません。」

素知らぬ顔をして手元の書類に顔を向けた。顔に出ていなかっただろうか。早鐘を打つ心臓は外まで聞こえてしまいそうなほどで、僕は柄にもなく動揺していた。

『いい香りですねエルマ、香水ですか?』
『ありがとうジョルノ。香水じゃないわ、柔軟剤なの。日本から取り寄せたんだけど、いい香りでしょう?』

そう言ってエルマは微笑んでいなかったか。控えめで甘すぎず爽やかさを感じさせるそのフローラルな香りは、ここネオポリスの店先にはそうそう並んでいない事を僕は知っている。

つまりそれは。

「おはようジョルノ、今日もいい天気ね。」
「おはようございますエルマ。ええ、本当に。」

人好きする笑顔でエルマが僕に声をかけてきた。フワリと鼻腔をくすぐる花の香りが今は胸を締め付けてくる。

僕はエルマが好きだ。
彼女に対するこの想いは日々膨らんできていて今にも口に出してしまいそうだったが、それをしなくて本当に

「……良かった。」
「?どうかした?」
「いえ。」

不思議そうにするエルマに微笑むと、そう?と小首を傾げてからブチャラティの元へ歩いて行った。

『どうして気付かなかったんだろう。』

ブチャラティの隣で笑うエルマの幸せそうな顔に。微かに混じる甘い声音に。
今は彼女が幸せならばそれでいい。でも悲しい顔を見たなら、その時は。

来ないかもしれない未来に期待するなんて無駄な事だと思いながら、それでも僕は宝物のようなこの気持ちを胸の奥深くにしまい込んだ。

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