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□la mia dolce metà
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エレベーターのない古いアパルタメントの階段を重い足取りで登る。途中でチラリと腕時計を見たら約束の時間はとうに過ぎていた。いや、時間どころか日付も怪しい。そもそも約束自体していたのか、それすらも分からなくなるくらいその時オレは疲弊しきっていた。

それでもどうにか足を運んで目的の部屋の前でノックを軽く3回。しばし後に物音がして、軽い足音がドアに向かうのが分かった。

「はい、どなた?」
「オレだ。」
「ブローノ!?」

カチャカチャと鍵を外す音。そして開いたドアの向こうには驚いて大きな目をさらに見開くエルマがいた。

「どうしたの急に。」
「約束、してなかったか?」
「してなかった……と思うけど。とにかく入って。」

迎え入れてくれた玄関でドアが閉まるのも待てずに、オレはエルマを抱き締めた。
腕の中に収まったエルマの柔らかな身体と甘やかな香りに、さっきまで酷くささくれ立っていた神経が宥められていくのが分かる。しばらくそうしているとエルマは腕を回してオレの背中を優しく撫でてくれていた。

「今日はずいぶんとマンモーニね。」

くすくすと笑いを漏らす彼女を少し離して口付ける。任務を遂行してきた昂りがオレを止まらなくさせた。逃げる舌を捕まえて絡ませ、深く深く。時折漏れる吐息まで自分のものにしたくて、エルマの身体をしっかり捕まえて口腔内を蹂躙した。

「っは、ブロ、ノ。待って。」
「待てない。」

ようやくエルマを解放すると息も絶え絶えに潤んだ瞳でオレを見上げている。薄く笑ってエルマを抱き上げると、形ばかりの抗議の声も聞かずに迷わず寝室へ向かった。



*****************



激情が鎮まると愛おしさが湧いてくる。
オレはまだ息を乱すエルマを抱き寄せて額にキスを落とした。

「大丈夫?」
「何がだ?」
「来た時のブローノ、酷い顔だったから。お仕事大変だった?」

オレの顔を両手で挟んでエルマが心配そうに呟いた。

「そんなに酷かったか?」
「うん。ちょっと怖かった。」

でももう大丈夫みたいねと微笑むエルマに罪悪感が湧いた。

「すまない、約束もなしに来てしまって。」
「いいの、私もあなたに会いたかったから。来てくれて嬉しい。」

フワリと微笑むエルマに胸の奥がぎゅうっと掴まれたようになる。受け入れてくれるエルマがいるからオレはオレでいられるのかもしれない。

「la mia dolce metà、エルマ。どうやらオレは君がいなくちゃあ空も飛べない。生きていけないらしい。」
「嬉しい、私もよブローノ。あなたがいなけりゃ私の世界は暗闇だわ。」

そして見つめ合い、愛を囁き微笑み合って口付けを交わす。
この部屋を出るときは再びパッショーネのブチャラティだが今だけは、ただのブローノとして全身全霊で君を愛そう。

la mia dolce metà
〜我が善き片羽よ〜

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