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□サン・バレンティーノ
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まあ予想はついていた。

目の前の彼女の申し訳なさそうな顔を見て、オレはため息をコーヒーと共に飲み込んだ。

「そうだったな。無理を言って悪かった」
「ごめんなさい、どうしてもお休みがもらえなくて」

リストランテでウエイトレスをやっているエルマにとって、掻き入れどきのその日はとても休暇を申請するなんてできないと言う。決して有名ではない小さな店でもその日ばかりは予約でいっぱい。スタッフ総出で対応するのだ。

サン・バレンティーノ
恋人たちの日

オレもイタリアーノらしくエルマをディナーに誘おうと思ったのだったが、これではどうやら人気の店の席が二つ空いてしまいそうだ。

「そういえば去年もランチの時間から混んでいたな。昼を食いそびれたっけ」
「そうだった?ああ、予約のお客様以外はお断りしてたから」

去年の今頃はまだ彼女を遠くから見ているだけだった。恋人という関係になって初めてのサン・バレンティーノだったから、柄にもなく浮かれていたかもしれない。

「本当にごめんなさいブローノ。もしかして、どこか予約してたりした?」
「ああまあ、一応な」

オレが店名を告げると彼女は目を見開き息を飲んだ。

「すごい……なかなか予約取れないのに……。どうしよう、やっぱりオーナーに早く上がらせてもらえないか言って……」
「そんな風にして時間を作っても楽しめないんじゃあないか?無理はしなくていい。ただ」

そこで言葉を切り、不思議そうにする彼女のテーブルに置かれた手を取るとそっと口付けながら視線を合わせた。

「次の休みに埋め合わせはしてもらうぜ?」
「……ええ、あなたのお望み通り」

驚いたように頬を染めるエルマに微笑んで、オレは次のプランを考え巡らせていた。
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