オレンジ色の旅日記
□7歩目。
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「へぇ…そんなことが…」
「うん、あとね、イーブイは兄さんたちがゲットしようと思ってもモンスターボールを弾き飛ばすし、僕の腕の中に飛び込んでくるようになったし。結局僕がゲットすることになったんだ。まぁでもその時はまだポケモントレーナーとしての資格は持ってなかったからボールに入ったのは僕の10歳の誕生日の時だったかな。」
ユウキはそう言いながら自身の膝の上で眠るエーフィを見つめる。
「出会ったときは本当に臆病だったのに、今じゃ悪タイプポケモンのトラウマも克服もしてブラッキーとすっかり仲良しになった。僕の初めてのポケモンで大切な妹みたいな子だよ。」
「なるほどね…そうだ、ユウキはどうしてエーフィに育てたんだい?イーブイは僕のブラッキーやブースター、サンダース、シャワーズ、グレイシア、リーフィア、ニンフィアにも進化するけど…」
「ああそれね。僕の方針なんだけど、ポケモンたちの好きに育てようって決めてるってのもあって進化するのもしないのもポケモンたちの意思で決めてるんだ。それで僕のイーブイはある出来事をきっかけにエーフィになったんだ。」
イーブイが僕に懐いて一緒に生活するようになったある日のことだった。その日はユウイチ兄さんは島の外にある研究所へ出掛けていて、ユウジロウ兄さんもジムリーダーの仕事でカントー地方へ出掛けていたから本当に僕とイーブイ、それとラルトス、ケーシィの一人と三匹で留守番していたんだけど、突然大きな声が外から聞こえてきた。
「オイコラァ!!!」
「ユウジロウはいるかー!?」
「出てきやがれ!!」
知らない男たちの声だった。僕は驚きつつみんなには家の中で待ってるように言うと外へ出た。
「お兄さんたち誰?ユウジロウ兄さんなら今留守だよ。」
「あ?んだこのチビ?」
「ユウジロウの妹か?」
「女に、しかもガキに用はねぇんだよ!引っ込んでろ!」
男たちの言葉にムッときた僕は男たちに向かって言葉を吐き捨ててやった。
「今ユウジロウ兄さんは留守だって言ってるの!人の話に耳を傾けない頭の悪いお兄さんたちこそ誰!?」
「んだとこのガキ!生意気言いやがって!」
「まぁ待てお前ら!ユウジロウの生意気なクソ妹にもわかるように説明してやろうじゃあねーかぁ、良いかよく聞け!俺らは格闘ポケモンで不良トリオとしてセキエイ大会にチャレンジするユウザキ島の希望の星ブラック★スターだ!」
「よく覚えとけぇ!」
「この前ジム戦に行ったらテメェの兄貴のポケモンにボコボコにされたんだよ!」
「俺のサワムラーマジキック力ヤベーんだよ!なのにエスパーポケモン使って来やがったんだ!!」
「俺らのポケモンは最強なんだよ!なのに負けるっておかしくね!?バッジももらえなかったしよぉ!ムカつくから家奇襲してバッジ奪い取ってやろうと思って来てやったんだよ!」
シゲルが途中で何そのダサいチーム名…と呟いた。あ、やっぱりそう思うよね?僕も最高にダサいと思った。特に真ん中の黒星が。当時の僕も最高にダサいと思ったし、ムカついてたからハッキリダサいって言っちゃったんだよね…
「ダサッ、お兄さんたち、格闘タイプはエスパータイプに弱いとかトレーナーの知識があれば普通知ってるよ?
それにジムリーダーはきちんと何タイプに特化したジムなのか看板やパンフレットでも提示してる。それも読まずに挑戦したの?情報収集が足りてないし、普通に考えて相性の悪いポケモンでバトルするなら最低レベルを上げてくるのが常識だし、作戦を練るのもトレーナーとしての基礎知識、応用力、ポケモンとの絆を測るものがジム戦だよ。
今私に話した情報からでもお兄さんたちは圧倒的にどれも欠けてるのがまだ小さい私でもわかるよ。だから負けたのに逆恨みして家を奇襲してバッジを奪い取ろうなんて泥棒のすることと同じだよ。不良トリオだかなんだか知らないけど私よりお兄さんのくせにそんなこともわからないの?頭悪いね。
あとそのチーム名の真ん中の黒星が最高にダサい、いかにも田舎者の不良がつけそうなセンスの無さがにじみ出ててドン引きだよ。」
僕の正論のナイフを聞いたシゲルはキミの言い分は正しいけど危ないからあんまり相手を刺激しちゃダメだ、って怒られた。あはは、悪い人には腹立つとついつい言いすぎちゃうんだよね…
「ぁんだとこのクソガキ!!」
「もう許さねぇ!ガキだろうが容赦しねぇぞ行けエビワラー!」
「ユウジロウに人質として出しゃさすがにバッジ出すだろ!」
「行け!サワムラー!」
「ゴーリキーお前も行け!」
『エビッ…』
『リキィ…!』
『サワッ…』
不良トリオとは反対にポケモンを持ってすらいない子供に対して躊躇するポケモンたちを見て、それでも命令に逆らえないポケモンたちを僕は可哀想に思った。
「ビビって漏らすなよガキぃ!ゴーリキー!空手チョップだ!」
『ゴーリ…キィ!』
「…っ!」
怖くなって目をつぶった僕の前にイーブイが飛び出してきたんだ。
『ブィイィイ!』
「イーブイ!!」
僕を庇ったイーブイが空手チョップを食らって飛ばされた。ノーマルタイプのイーブイに格闘技は効果抜群だ…!僕はイーブイを受け止めて必死に声をかける。
「イーブイ!!イーブイ!!」
『ブィ…』
「ひゃはははは!弱っちいポケモン、チビガキにはお似合いだぜ!!」
「……っ許さない…っ!アンタたち絶対に許さないっ!この子たちは…この家は私が守る!」
そう言ってポケモンたちと不良トリオを睨みつけるとイーブイが叫んだ。それと同時にイーブイの体が輝いて尻尾が二股に分かれ、体毛も茶色のふわふわの毛並みから薄ピンクの光り輝く毛並みへと変わったんだ。
「イーブ…イ?」
『フィー…』
「エーフィ…?」
エーフィは僕の前に再び出て、ゴーリキーたちを睨んだ。不良トリオは進化しやがった!構うことはねぇ!やっちまえ!と叫びながら攻撃を仕掛けてきた。
「エーフィ!危ない!」
『フィー(大丈夫、ユウキちゃん。)』
「え…?」
頭の中にエーフィの声が聞こえてきたと思ったらエーフィの額の赤い玉が輝き、ゴーリキーたちの動きを止めた。そして三匹まとめて不良トリオに向かって投げつけた。
「ぐぁあ!!?」
「そんなっ…!まさか!」
「サイコキネシスだと…!?」
『フィー…!』
エーフィはギラリと不良トリオを睨みつけ近くの岩をサイコキネシスで持ち上げた。不良トリオは悲鳴を上げて自身のポケモンたちを置いて逃げ出した。
『フィー♪』
「イーブイ!…いや、エーフィ!助けてくれたんだね…ありがとう…!」
エーフィは僕の足下に寄ってきて自身の体を擦り付けた。僕は少し体の大きくなったエーフィをギュッと抱き締めた。ゴーリキーたちは目を覚ましてエーフィと僕に怯えた。
僕はゴーリキーたちに近寄って頭を撫でる。
「大丈夫、もう攻撃はしないよ。貴方たち、私を攻撃するの少しためらってくれたでしょう?トレーナーの命令に従っただけだよね。」
『リキィ…』
『エビ…』
『サワッ…』
「このまま逃げちゃえばいいよ。貴方たちを置いて逃げ出すようなトレーナーに従うより野生のポケモンとして自由に生きなさい?」
『リキ!』
『エビワッ!』
『サワッ!!』
ゴーリキーたちは嬉しそうに笑ってユグレの森の中へと逃げていった。
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