オレンジ色の旅日記

□8歩目。
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シゲルがユウザキ島にやってきて、一週間が過ぎたある日のことだった。お茶でも煎れようかとユウキがポットに火をかけた時、家の外から大声が聞こえてきた。


「ユウキー!愛しのセイラ様が遊びに来てやったぞ!」
『ガー!』


「うわ…めんどくさいのが来た…」
『フィー…』


エーフィと顔を青ざめながら見合わせ、一度火を消すと渋々玄関へ出ようとする。めんどくさいことになりそうだ…とこめかみを抑えながらこれから起こることに一抹の不安を抱えつつも外へ出た。


外に出ると金髪の少し高そうな衣服に身を包み、足下にはヘルガーを連れた少年が立っていた。
少年はユウキの姿を見つけるとマイハニー、と飛びかかろうとしてきた。もちろんすぐにかわしたが。


「毎回毎回何、セイラ。旅から帰ってくる度僕の家に来て。」

「ふっ、そりゃあフィアンセに会いに来るのに理由なんか必要ないだろう?愛しのマイハニー。」

「僕はキミの甘い蜜になった覚えはこれっぽっちもないんだけど。」
『フィー…』

『ガー!!』
『フィッ!』

エーフィはエーフィでセイラのヘルガーに怯え、ユウキの後ろに隠れてしまった。ユウキは大丈夫だよ、とエーフィをなだめる。するとそこへユウイチ研究所から戻って来たであろうシゲルがやってきた。

「ユウキ?どうしたんだい?」

「げ…」

「んん〜〜〜〜〜????この男は誰だいマイハニー?」

最悪だ…と頭を抱えたユウキ。シゲルを睨み付けるセイラ。

「キミこそ人に名前を聞くときは先に自己紹介するべきじゃないか?」

シゲルがそう言い返すと、シゲルに見せつけるようにユウキの肩を抱くセイラ。

「ああ、これは失礼。俺はセイラ。このユウヒガシティの市長の一人息子で彼女のフィアンセさ。」

「だから僕はキミのフィアンセになった覚えはこれっぽっちもないんだけど。」


セイラの手をバシッと叩いたユウキの姿を見てシゲルは察したのかため息をついてから自身も自己紹介をした。


「僕はマサラタウンのシゲル。オーキド・シゲルだ。」

「オーキド…?ああ、あのカントーにある小さな町のしょぼい研究者の名前だったっけか?」


自身の祖父であり数々の研究実績を残しているオーキド博士の悪口を言われ、シゲルはムッとした。シゲルが文句を言う前にセイラをユウキが平手で殴った。


「セイラ。キミ、旅に出ても全く成長してないね。人をバカにすることでしか自身を大きく見せられない小さい男!シゲルとオーキド博士に謝りなさい!」

「ああ、相変わらずキミの毒舌は効果抜群だね!そんな釣れないところも素敵だよ!ひょっとしてまだキミ、俺と初めて会った時のことを怒っているのかい?」

「当たり前でしょう!?キミなんて大嫌いさ!」

「嫌よ嫌よも好きの内…キミと俺は夫婦になる運命なのさ…」

ユウキの頬に手を当てて顔を近づけようとするセイラ。ユウキの表情にも嫌悪感がにじみ出ている。それを見たシゲルがさっとユウキの手を引いた。


「セイラとか言ったね。…彼女をこれ以上侮辱するのはやめてもらおうか。」

「…シゲル。」

「…気に入らないな、キミ。しみったれた田舎の研究者の癖に。」

「そのしみったれた田舎の研究者よりも観察力は劣っているようだ。嫌がる女の子にしつこく食い下がるほどみっともないことはない。」

「ほう…そこまで言うなら彼女を賭けてポケモンバトルしようぜ。」

「はぁ!?何で僕が賭けられるんだよ!?意味わかんない…「良いだろう。」シゲル!?」


そう言い切ったシゲルにセイラは勝ち誇った顔をした。ユウキはシゲルに向かってちょっとシゲル!と怒る。


「大丈夫。僕を信じて。」

「………負けたら承知しないからね、シゲル。」

「うん。」


シゲルの言葉を信じ、ユウキはこくりと頷いた。


「シゲル対セイラ、1対1のポケモンバトルを始めます!」

「行け、ヘルガー!」
『ガー!』

「行け、ブラッキー!」
『ブラッキー!!』

結論から言えば瞬殺でブラッキーの勝ちだった。セイラもヘルガーも偉そうに威張っていた割にシゲルとブラッキーに大負けに負けてプライドがズタズタにされたらしく逃げ帰ってしまった。


「……はぁ…」

「大丈夫かい?ユウキ。」

「なんか、どっと疲れた…別に僕は何もしてないんだけどさ…」

『フィー♪』
『ブラッキ♪』

「…負けると思った?」

「うぅん。シゲル、ポケモンバトルも強いんだね。」

「当り前さ。…キミを渡したくなかったしね。」

「え…?」


シゲルが真剣な顔でそう言い放った。


「…ば、バカじゃないのかい……///」


ドキドキ高鳴る胸の鼓動は一体何なのか、最近変だ、と戸惑い続けるユウキであった。









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