COLOR

□二色目
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弟者君が情報を洗い流している間に、残りの


僕たちは現場の写真から新たの情報を得ようと


じっと写真を見つめる。


「・・・なにも分からねえな・・・・・。」


「ほんとに、何も教えてくれないね。」


『・・・・・・・・・。』


空ちゃんは何も言わずにただじっと


複数の写真を見つめていた。


気になって横目でちらりと見遣る。


先日犠牲となったA氏の邸宅の内装だった。


彼女が見ている写真にはどれも花がある。


やっぱり花屋としては気になるのかな?


「・・・花が気になるの?」


『・・・少々・・・。


つかぬ事をお聞きしますが、A氏の誕生日は


いつでしょうか?』


「誕生日・・・?」


『写真の中にはシロヤマブキという花が


写っています。その花の誕生花は5月20日


なのですが、もしかしてA氏の誕生日は


5月20日でしょうか?』


慌てて弟者君が洗い直しているA氏の


プロフィールを確認する。


財務大臣、A氏、5月20日生まれ・・・・・。


「確かに・・・5月20日だ・・・。」


でも、なんで・・・?


「ねえ、空ちゃん?」


『はい?』


「何でそのことに気が付いたの?」


彼女は勘が鋭い。普通は気にしないことに


気をかける。きっと、今回のこの事件に終止符


を打ってくれるのはこの子かもしれない。


『写真を拝見した時、思ったんです。


“異様に花が生けてあるな”と。きっと撮影


した写真には全て、花が、シロヤマブキが


写っていると思います。そこまでして一種類


の花を生けるでしょうか?普通は、その部屋


の雰囲気や、個人の好みに合わせて花を


生ける筈です。』


「てことは、対象者の誕生日を洗い直して


みれば良いのか?」


『その価値はあるかと・・・。』


「よし、弟者!対象者の誕生日を確認!」


「う、うん!」


弟者君がバラバラと忙しなくプロフィールを


確認していく。


「A氏が5月20日、S氏が6月23日、


N氏が8月20日、H氏が10月11日、T氏が1月2日」


「A氏以前に亡くなった環境大臣のM氏は?」


「5月2日・・・。」


一つ、大きな手掛かりを得られた。


「犯人は誕生日順に、手をかけている。」


「やっと、分かってきたな。」


「お手柄だよ!空ちゃん!」


『お役に立てて、良かったです』


彼女がいなかったら、奴の掌で踊らされてた


だろう・・・。でも、邸宅にあった花を見る


限り、この情報を得ることは想定済みだろう。


「花か・・・。回りくどい表現だな。」


『・・・・・・・。』


まだ空ちゃんが考え込んでいる。


「まだ、気になることがある?」


優しく問いかけてみる。


彼女がそっと形の良い口を開けて、言の葉を


紡いだ。その言葉はまた不思議なものだった。


『何で、シロヤマブキなんだろう、と。』


「なんでって、5月20日の誕生花だろ?」


『5月20日の誕生花はシロヤマブキだけじゃ


ないんです。オダマキ、カタバミ、


オオバナヒエンソウ、ハナショウブに


レモン・・・。沢山ある中で、犯人は何故


シロヤマブキだけなんでしょう・・・?』


シロヤマブキでなければならない理由・・・。


もしかして・・・・・


「花言葉・・・?」


『花言葉、ですか・・・?』


「多分だけどね。数ある誕生花の中で


シロヤマブキじゃなきゃいけないのは、


その花にしかない花言葉があるからって


考えられないかな・・・?」


『シロヤマブキの花言葉は“細心の注意”、


“薄情”・・・。』


「細心の注意をしろってことだったのか。」


兄者君が心底悔しそうにロリポップをガリッと


音を立てて噛み砕く。


「じゃあ、“薄情”っていうのは?」


弟者君が当然の疑問を呈した。


「何が薄情なんだ?」


答えを求めてついつい空ちゃんの方を


見てしまう。僕らの視線に気が付いた


空ちゃんはふるふると首を横に振る。


『そこまでは・・・・・。』


まあ、そうだよね・・・。


「とにかく、次のターゲットはS氏の可能性


が高い。すぐに連絡を取って。」


「りょーかい。」


弟者君がすぐさま連絡を取る。


「いや、待て。連絡を取るのはまだ早い。」


兄者君が弟者君に待ったをかける。


兄者君が言葉を続ける。


「まだ“いつ奴が来るか”が分かってねえ。」


そういえばそうだった。


『・・・誕生日の前日・・・・・。』


「え?」


『A氏は5月19日に、M氏は5月1日に


殺されています。この流れから考えれば、


対象者は誕生日の前日に襲われる可能性が


高いかと・・・。』


「・・・ほんとに、勘が鋭いね。」


つくづく感服する。この子の勘の良さは


どこから来るのだろうか・・・?


「弟者はS氏に連絡、おっつんは警備部隊に


連絡してくれ。俺は上に報告する。」


今日の会議で事態は大きく動いた。


言い方が悪いけど、ただの花屋の女店主に


ここまで助けられるとは思わなかった・・・。


予想の襲撃日までの間、情報の洗い直しを


しておこう。


少し、奴に近づけた気がした・・・。


空ちゃんにコーヒーのおかわりを


貰って、情報の洗い直しに手をかけよう。
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