COLOR

□二色目
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六月になり、地球の温度は先月より上昇し、


爽やかに吹く風、降り注ぐ太陽の日差し、


豊かな新緑が、時折『初夏』を感じさせる。


レインボーガーデンは、新たな季節を迎える


ため、店頭の花の種類を少しづつ変えていく。


紫陽花、芍薬、向日葵、カンパニュラ・・・。


夏に彩りを与えてくれる主役たちを揃える。


『暑い季節だけど、よろしくね!みんな!』


レインボーガーデンの店主、七色空は


花々に声をかけながら水をやる。雫を纏った


花たちは己の輝きを一層目立たせた。


「おはよう、空ちゃん!」


『おついちさん!おはようございます!』


「朝ごはん、出来たよ。食べよう?」


『おついちさんが作ってくれたんですか!?


すみません、この子たちに夢中になって


しまいました・・・・・。』


「ううん、大丈夫だよ!あとでうちにも


新しい子、頼んだよ!」


『はい!お任せください!』


メインクーンの強帰先者、おついちは優しく


彼女の白い髪を梳いた。


『兄者さんのご容態はどうでしょうか?』


「順調に回復してるよ。さすがは強帰先者


ってところだね!」


『よかったです・・・!兄者さんにも、


新しい子たちを持っていかないとですね!』


「うん、よろしくね。なんだかんだでみんな


空ちゃんが生けてくれる花、


楽しみにしてるんだよ?」


『そうなんですか?嬉しいです!』


端から見れば、彼らは年の離れた兄妹、


若しくは恋人同士同然に仲睦まじく、事務所に


入っていった。


空は早速本業に入った。


枝の先端を整え、丁寧に生けていく。


先月の華やかさとは打って変わり、上品に、


どこか儚げに、しかし涼やかさを残して


紫陽花を生けていく。アレンジのグリーン


としてミントも一緒に添えて。


「今回は随分と上品だな、空。」


耳を心地よく刺激する低音が聞こえる。


「兄者君!もう起き上がっていいの!?」


「ああ、傷も塞がったし、腹減った。」


『兄者さん、本当に、大丈夫ですか・・・?』


空が眉を八の字に曲げ、問うた。


「心配しすぎ。お兄様を舐めんなよ?」


兄者の優しい声と、大きく温かい手に、


空も安堵の表情を浮かべる。


おついちもその光景に柔らかい笑みを湛える。


「さ!二人ともお待たせ!おついちさん


特製の純和風朝ごはんだよー!」


卓上には焼き鮭、味噌汁、白米、ほうれん草の


お浸し、厚焼き卵が綺麗に配膳されている。


『美味しそうです!』


「俺の米ちゃんと大盛りになってる」


「当たり前でしょ!ささ、召し上がれ!」


「『いただきます!』」


白色と青色はそれぞれ目に付けたおかずを


口に頬張り、咀嚼し、嚥下した。


『〜〜〜〜〜っ!!!美味しい〜!!』


空は心底幸せそうに目尻を下げた。


「そ〜お?空ちゃんにそんな顔


されたらおついちさんも嬉しくなっちゃう!」


「おっつん、米、おかわり。」


「もう!?もっとゆっくり食べなよ!」


相当腹を空かせていたのだろうか、兄者は


吸い込むように飯に食らいついていた。


「はい!おかわり。」


「サンキュ。」


「そうそう、空ちゃん?」


いまだ朝食に夢中の空におついちは


声をかける。優しい、緊張感のある声で。


『はい・・・?』


その緊張感を空も素早く察知し、


同じく優しい、緊張感のある声で返事をする。


「この後、僕たちの会議に参加してほしい。」


『え・・・』


「この前もそうだけど、犯人は君の事も


視野に入れている。そうなれば、もう


空ちゃんだけに情報を与えないって


いうのも無理があると思うんだよね・・・。」


『でも・・・大事な情報なんでしょう?


そんな、協力者とはいえ、ただの・・・


花屋なんかに・・・。』


「もう“ただの”花屋じゃねえよ。」


『え・・・・・。』


「“俺達の”花屋になっちまったんだよ。


お前があの時花を持って、生けた時点でな。」


『・・・・・・・・』


「君にこれ以上の負担はかけたくはない。」


『でしたらっ・・・!!』


「でも!それ以上に・・・君の事を、


守りたいんだ。なんとしても・・・!!!」


緑の瞳がきらりと強く輝く。


その輝きに無色者は魅了されるしかない。


『お、ついち、さん・・・。』


「俺からも、頼む。空。


俺らには、お前を守る義務がある。


その義務を全うさせてくれ・・・!」


『っ・・・・・。


わ、分かりました・・・から・・・!!』


二人の強帰先者に魅せられた無色者は


さっと目を逸らした。


無論、強帰先者たちは知りもしないだろうが。


「ごめんね、ありがとう。」


『よろしく、お願いします・・・。』


「ああ、任せろ。」


『ところで、弟者さんは・・・?』


「弟者君なら会議の資料作り。兄者君の


代わりに作ってるんだ。」


『そうなんですか・・・。』


「ご飯食べたら、会議室ね。」


『はい。』


いままで美味しく食べていた温かい朝食は


少し冷めていて、不安と少しの恐怖でじっくり


味わうことができなくなった。
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