-闇の花 ver.XANXUS-
□二つの炎
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世界のどこを歩いたって、誰も見向きもしてくれなかった
「お前みたいな化物は、消えてしまえ」
大人から受けるのは、慈愛の手ではなく嫌悪の手
打たれ、殴られ、蹴られ、身体中傷とアザだらけになった。
それでも、不思議と痛くはなかった。
(大丈夫。全て受け入れれば、何も感じない)
それは、自分を守るための殻。
そうして、何年も何年も過ごしてきた
少女は、今日も一人でフラフラと力なく街を歩いていた。
「…なんだいあの子…汚らしいね…」
「近づかない方がいいぜ…ああいう奴には」
誰もが彼女を避け、非難した
(…大丈夫。慣れてる)
しかし、少女も限界だった。
もう数週間とロクな食べ物を口にしていない身体は先に進むことを拒み、そのまま路肩に倒れ込んだ。
(…このまま、死ぬのかな…死ぬって、どんな感じなのかな…)
「…おい、ガキ」
その時だった。自分の上に影がかかったかと思うと、低く唸るような声に呼ばれた。
少女は顔を向けるだけで、精一杯だった。
「ここで野垂れ死ぬか、俺に付いてきて生きるか、どっちがいい」
獰猛な獣の様に光る赤い瞳で半ば睨む様に少女を見ながら、その男は言った。
その問に、少女は掠れた、しかしよく通る鈴のような声で、途切れ途切れに答えた
「…い、きた、い…」
その答えに満足したように口元を三日月にする男。そして、その男のガッシリとした手が、そっと少女の頭をなでた。
「生かしてやる。俺の元でな」
その言葉とともに少女の年の割に未発達な細い身体はだき抱えられ、逞しい男の腕にすっぽりと収められた。
「お前、名前は」
フルフルと、力なく首を横に振る少女に、男は暫く考えて口を開いた
「アリア」
何を言っているのか分からない、とでも言うように、少女はきょとんと男を見上げた。
「お前の名前だ」
その言葉に、ポロポロと少女の双眸から雫が溢れる。
いつぶりに流したかわからない、それは涙だった。
「俺の名はザンザス。覚えておけ」
「…ザン、ザ、ス…」
か弱い声で反芻された己の名に、フッと口角を上げる男…ザンザス。
「お前を探していた」
またまたきょとんとザンザスを見上げるアリア。
…何だって?自分を、探していた?
「お前はこれから、俺の部下だ」
今はよく分からないが、きっと後で分かるだろう。それよりも今は、男の…ザンザスの温もりに包まれて、睡魔が襲ってきていた。
「…ん…」
「何だ、寝みぃのか」
コクリと頷けば、彼はフッと笑って、寝てていい。とそれだけを告げた。
その言葉に、アリアはそっと瞳を閉じて自分を包む温もりに身を委ねた。
「逃がさねぇ…アリア」
己の腕の中で、すやすやと寝息を立てて眠る少女を一瞥してそんなことをつぶやいていたのは、彼だけの秘密。