美術館入口

□『A lost heart / 迷子の心−後編−』
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何も変わらない日々。

家が、また賑やかな声に包まれる。



これが、普通なんだって、僕は自分自身に言い聞かせる。


でも、何でだろう…胸のモヤモヤが、前よりも大きくなっている。
疑問をぶつけられないことで、フラストレーションが溜まっているもの確かだ。


普通、これが普通なんだ。


でも、お父さんの行動にイライラが募って行く。



お父さんが帰ってきたその日、肩を優しく叩かれた、あの時を最後に、お父さんは僕に、一切触れなくなった。

それどころか、避けられている気もする。


何で?どうして?

試験がもう直ぐだから 気を遣ってるって事?
そんなの、お父さんらしくない。

それとも、もう 僕の事なんて どうでもいいと思ってるって事?


そう思って、自分で哀しくなった…。



…これじゃあ、訊こうと思ってた事も 訊く事ができない…。

…考えようによっては、これで良かったんだと、そう思いたい。


それなのに、新たな疑問が増えただけだ。


家を離れたこの3ヶ月の間に、お父さんの中で、どんな変化があったんだ…。


―――――



お父さんが帰ってきて、1週間が経った。



お父さんが、料理をしているお母さんにちょっかいをだして、お母さんから怒られている姿を見て、クスッと笑みが零れる。

仲良くしている姿を見て、平和だなぁと思う。

お母さんの腰を抱くお父さんの腕…

仲むつまじい姿を見て、心が暖かくなる。



…その反面、胸の奥がざわつく。



何だろうこれ…。3ヶ月前も、あった気はする。
でも、今の方が、強く感じる。


何……?



『 僕の この胸のモヤモヤを…誰か、どうにかして……。』




…僕の嫌な部分が出てきそうで…

受験勉強にかこつけて、僕は自室に居る事が多くなった。




―――――





「…兄ちゃん、どうしたんだろ…最近、ずっと部屋にいるね。」

「そうだな。…もう直ぐ 大事なテストがあっから、その勉強しなきゃいけねぇんだよ。そのテストが終わったら、兄ちゃんに、いっぺぇ遊んでもらおうな!」

「そうだぞ、受験生は忙しいだ。兄ちゃん、頑張ってんだから、邪魔しちゃなんねえぞ、悟天ちゃん。」

「…うん…でも、もう何日もだよ。今まで、こんなことなかったのに…。」

「悟天、心配すんな。終わったら、兄ちゃんの方から出てくっから。」

「…うん。」

「今日はトランクス達と遊びに行くんだろ?思いっきり楽しんでこい。」

「分かった。…そうだ!お父さん、お留守番のご褒美に、兄ちゃんとこれ食べていいよ!2人で分けて食べるアイスだよ。お父さん、ひとりで食べちゃダメだからね!」

「ははっ分かったよ。兄ちゃんと半分こにして食べたら良いんだな?」

「うん!そうだよ。仲良くね!」

「仲良く?」

「だって…せっかくお父さん帰ってきたのに、お父さんと兄ちゃん、全然 しゃべらないんだもん。」

「……ありがとな、悟天!おめぇは優しいなぁ。」

「へへ…あっ!それと、兄ちゃんに、これ、渡しといてくれる?」

「ん?なんだ?大事そうに紙に包んで…なんか、良い匂いすんな〜。」

「あっ!開けちゃダメだよ!兄ちゃんにちゃんと渡してね。」

「? ああ、任しとけ!」

「悟天ちゃん、ブルマさん来たみてえだぞ。さ、行くべ。」

「お〜い、ごてーん!」

「あ!トランクス君だ!じゃ、行ってくるね!」

「おう!行ってこい!」

「悟空さ、悟飯ちゃんよろしくな。なんもしなくて良いから、そっと しとくんだぞ。」

「分かってるって。」

「じゃ、行ってくるベ。」

「気ぃつけてな。」






「…はぁ〜…静かんなったなぁ…。ん?雨?あ〜こりゃ、修行無理かな…。」



―――――



賑やかだった家の中が、急に静かになった。

ああ、悟天、トランクス君と出掛けたんだな。昨日、そんな話してたっけ。
生憎の雨だけど、雨だって楽しむ2人だから、良い時を過ごせるだろう。
お母さん達は大変だろうけど。


心地良い、雨音を聞きながら、僕は本のページを捲った。







気がつくと、もうお昼を回っていた。
家の中はとても静かだ。
この雨の中、お父さんは修行に行ったのだろうか?


下に降りると 台所には、お母さんが用意してくれたお昼が、手つかずのまま 置かれていた。

お父さん、本当に修行に行ったのか…と思ったが、リビングを見ると、どうやら、ソファーに寝っ転がって、そのまま眠ってしまったらしい。
ソファーの肘掛けから、お父さんの手が見えている。
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