美術館入口
□『A lost heart / 迷子の心−後編−』
1ページ/7ページ
何も変わらない日々。
家が、また賑やかな声に包まれる。
これが、普通なんだって、僕は自分自身に言い聞かせる。
でも、何でだろう…胸のモヤモヤが、前よりも大きくなっている。
疑問をぶつけられないことで、フラストレーションが溜まっているもの確かだ。
普通、これが普通なんだ。
でも、お父さんの行動にイライラが募って行く。
お父さんが帰ってきたその日、肩を優しく叩かれた、あの時を最後に、お父さんは僕に、一切触れなくなった。
それどころか、避けられている気もする。
何で?どうして?
試験がもう直ぐだから 気を遣ってるって事?
そんなの、お父さんらしくない。
それとも、もう 僕の事なんて どうでもいいと思ってるって事?
そう思って、自分で哀しくなった…。
…これじゃあ、訊こうと思ってた事も 訊く事ができない…。
…考えようによっては、これで良かったんだと、そう思いたい。
それなのに、新たな疑問が増えただけだ。
家を離れたこの3ヶ月の間に、お父さんの中で、どんな変化があったんだ…。
―――――
お父さんが帰ってきて、1週間が経った。
お父さんが、料理をしているお母さんにちょっかいをだして、お母さんから怒られている姿を見て、クスッと笑みが零れる。
仲良くしている姿を見て、平和だなぁと思う。
お母さんの腰を抱くお父さんの腕…
仲むつまじい姿を見て、心が暖かくなる。
…その反面、胸の奥がざわつく。
何だろうこれ…。3ヶ月前も、あった気はする。
でも、今の方が、強く感じる。
何……?
『 僕の この胸のモヤモヤを…誰か、どうにかして……。』
…僕の嫌な部分が出てきそうで…
受験勉強にかこつけて、僕は自室に居る事が多くなった。
―――――
「…兄ちゃん、どうしたんだろ…最近、ずっと部屋にいるね。」
「そうだな。…もう直ぐ 大事なテストがあっから、その勉強しなきゃいけねぇんだよ。そのテストが終わったら、兄ちゃんに、いっぺぇ遊んでもらおうな!」
「そうだぞ、受験生は忙しいだ。兄ちゃん、頑張ってんだから、邪魔しちゃなんねえぞ、悟天ちゃん。」
「…うん…でも、もう何日もだよ。今まで、こんなことなかったのに…。」
「悟天、心配すんな。終わったら、兄ちゃんの方から出てくっから。」
「…うん。」
「今日はトランクス達と遊びに行くんだろ?思いっきり楽しんでこい。」
「分かった。…そうだ!お父さん、お留守番のご褒美に、兄ちゃんとこれ食べていいよ!2人で分けて食べるアイスだよ。お父さん、ひとりで食べちゃダメだからね!」
「ははっ分かったよ。兄ちゃんと半分こにして食べたら良いんだな?」
「うん!そうだよ。仲良くね!」
「仲良く?」
「だって…せっかくお父さん帰ってきたのに、お父さんと兄ちゃん、全然 しゃべらないんだもん。」
「……ありがとな、悟天!おめぇは優しいなぁ。」
「へへ…あっ!それと、兄ちゃんに、これ、渡しといてくれる?」
「ん?なんだ?大事そうに紙に包んで…なんか、良い匂いすんな〜。」
「あっ!開けちゃダメだよ!兄ちゃんにちゃんと渡してね。」
「? ああ、任しとけ!」
「悟天ちゃん、ブルマさん来たみてえだぞ。さ、行くべ。」
「お〜い、ごてーん!」
「あ!トランクス君だ!じゃ、行ってくるね!」
「おう!行ってこい!」
「悟空さ、悟飯ちゃんよろしくな。なんもしなくて良いから、そっと しとくんだぞ。」
「分かってるって。」
「じゃ、行ってくるベ。」
「気ぃつけてな。」
「…はぁ〜…静かんなったなぁ…。ん?雨?あ〜こりゃ、修行無理かな…。」
―――――
賑やかだった家の中が、急に静かになった。
ああ、悟天、トランクス君と出掛けたんだな。昨日、そんな話してたっけ。
生憎の雨だけど、雨だって楽しむ2人だから、良い時を過ごせるだろう。
お母さん達は大変だろうけど。
心地良い、雨音を聞きながら、僕は本のページを捲った。
気がつくと、もうお昼を回っていた。
家の中はとても静かだ。
この雨の中、お父さんは修行に行ったのだろうか?
下に降りると 台所には、お母さんが用意してくれたお昼が、手つかずのまま 置かれていた。
お父さん、本当に修行に行ったのか…と思ったが、リビングを見ると、どうやら、ソファーに寝っ転がって、そのまま眠ってしまったらしい。
ソファーの肘掛けから、お父さんの手が見えている。