夢日記
□雨
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『なので皆様、今日は傘を持ってお出かけくださいね!それでは、スタジオの佐藤さんにお返ししま〜す!』
今朝テレビから流れていた天気予報。
「もっとちゃんと聞いてればよかったなぁ…」
私が起きた頃にはもう彼の姿はなかった。
ただうっすらと、「ほな、行ってくるで」と小声で呟いてちゅっと1回キスをして彼が出て行った覚えはあるのだが…
家を出る前はバタバタとしていたため、ニュースも横目にこんな酷い雨になるとは思わずちゃんとした傘を忘れてしまっていた。
あるのはいつも念のために入れているちゃちい傘だけ。
雨による湿気のせいだろう。
髪はぺったりしんなり。なんだか部屋もベタベタでじめじめしている。
「あーーーっ!!携帯忘れた!!」
慌てるとろくなことがない。
はあ。と溜息をつき、うーんと背伸びをしたあと仕事に戻る。
カタカタと、パソコンを打ち込む音だけが室内に響いていた。
「あ、あの。名無しさん、ここ教えて貰っていいですか?」
隣に座って作業をしていた同僚が話しかけてきた。会社の後輩で、よく仕事を一緒に任される仲なのだ。
「ん!おっけ。あ〜…ここはね、シフトとCtrl使えば簡単!…てか今日すごい雨だね。帰れる?大丈夫?」
「大丈夫です!今日は電車で帰ろうと思っているので。でも…いま土砂降りですし駅から自宅までもありますし、仕事が終わるまでに止んでるといいんですが…」
後輩はしょんぼりした顔で窓辺を見つめた。
名無しは昔から雷が大嫌いで、この年になってもなお雷が鳴り出すと耳を塞ぎ朝まで布団にくるまるくらい、一種のパニックを起こしてしまうことも…
鳴らなければ、なんてことは無いのだが…
「でもこの雨…止まなそうだね…」
窓に水の粒が当たる度、パチン、ピチンと音がする。
粒はかなり強く窓に当たっているようだ。
案の定、仕事が終わる時間に雨はやんではくれなかったものの、だいぶ小雨になっており歩いて帰れるだろうとふんだ。
ばさ、と折りたたみの傘を広げると、うまく身を縮めながら歩き出す。
「うぅ…いくら小雨だからって結構粒おっきいなぁ〜!」
早く彼の待つ家に帰ろう。
足取りは自然と早くなる。
彼のため。…だけではない。
雷。
そう、あの大きい音が来る前に。