Sweet Venom

□香り
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「はー…」

たくさん走るペンの音と、たまに聞こえるヒソヒソ声。
窓際の席の私は、ぽかぽかと差し込む光と心地良い風にウトウトと揺れていた。
気持ちいいなぁ…
微睡みの中で、心地のいい声だけが響いて私はそのまま机に突っ伏していた。







「いたっ…!」

「どこ向いとるんやあ〜おチビちゃん」


ぽこっと丸めた教科書で頭を小突かれ見上げると、眉間に皺を寄せた男が立っていた。


「だ、あっ、せ、先生…」

「なぁに俺の授業で寝てくれてんねん」

「ご……ごめんなさい……」

「悪い子やな〜、ま、素直に謝れたんは偉いな」


ぽん、と頭を撫でられ、驚きで仰け反る。


「っなにすんですか!!!みんなもい…!!」

ない?

誰もいない!?


「アホか。もう授業なんかとっくの昔に終わっとるわ」

「え!?」

「名無しチャン、放課後、って知っとる?」


どうやら私が寝ている間に授業は終わっていたらしい。
それどころか放課後。
外で元気な運動部がやいやいと部活に勤しむ声が聞こえている。

…もっと早く起こしてくれればいいのに。



「あ。お前いま“もっと早く起こしてくれればいいのに”とか思たやろ」

「お、おも、おもってないですよ!!」



私は図星をつかれたことを隠そうと乱れた自分の前髪をぐしぐしと慌てて雑に直した。


「ほんまか〜?」


眉間にクッとシワを寄せ、先生は怪訝そうな顔をする。


「うるさいなあほんとに!」


ばっとカバンを机から雑に剥がし荷物を詰めると、ガタッと席を立つ。
彼は黙ってその様子をただ眺めていた。


「んじゃ、先生お疲れ様でし……」


帰ろうと出口のドアの方を向くと、スっと動いた先生の胸板にぶつかった。


「いっ……!なんですか」

「ちょお、動くな」


突然顔を近づけられ、長いまつ毛が視界に入る。
吐息に混じるハイライトの煙たい香りがふわりと鼻腔をくすぐった。


「え、ちょ、ま、まじま…せん……」


何をされるかわからない距離に心臓がバクバクと跳ね上がった。


「う………!」

「……とれたで」

「………は?」


さっき近くに感じていた熱が一気に体からスーッと引いていく。
先生の手には、謎の枯葉。


「ぐしゃぐしゃ髪直しよるから奥まで絡まっとったわ。寝とる時に窓から入ったんやな」

「あ…」

「…おぉ?顔真っ赤やでどないしたん?」


彼は机に軽く腰掛けくつくつと意地悪な顔をして笑った。


「〜〜〜なんでもないです!!先生の馬鹿!意地悪!!!」

「俺は意地悪やで。試すか?」

「いい!帰る!!!」


勘違いした気恥しさで一気にダッシュで教室をあとにする。


「面白いやっちゃなあ〜ヒヒッ」


なぜかバクバクと鳴り止まない心臓。


私は赤くなる顔を必死に隠し学校を後にした。


 

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