短編。

□桜が満開に咲く頃に。
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「仲良くなれないと思う」

隣の席に座るねるに奈々未は言ったーー。

それが2人の始まりだった。








高校2年生の二学期が始まる頃、転校生がやってきた。


高校生活の折り返し地点。
クラスメイトと仲良くなったり、進路について考え始め悩んだり、そんな季節。


そんな時に転校生がやってきた。


ここの学校は進学校で相当頭が良くないと入学するのは難しい。


そんな高校に転校して来たのが長濱ねる。


転校してきて2日目。
3時間目の数学の時、初めて先生が長濱さんを当てた。


「ここは難しいから長濱、無理はしないでいいぞ」


転校生には優しい。
いつも怒ってばかりの数学の先生が長濱さんに優しい。


隣に座る長濱さんが椅子を静かに引き、立ち上がる。


私の隣の通路にフワッと長濱さんの優しくて周りを幸せにするような香りが漂う。


その余韻に浸ってしまいそうだったけど、問題が解けていなかったから集中し直す。


いつもは躓くことないのに、なぜだか今日のこの問題は解けない。


そんな私をお構いなしに、長濱さんは白のチョークを手にスラスラと黒板に解き方と答えを書いていく。


書き終えたみたいで、静かに席に戻ってくる。


私の隣の通路を通る時、再び長濱さんの優しい香りがフワッと鼻に届く。


その香りが心を暖かくすると同時にチクリと胸が痛む。


だって、私は一応学年1位だから。
この進学校で1位なのに、私は解けなくて長濱さんは解けた。


たったのそれだけで私は長濱さんを敵視するようになった。



でも隣の席が故によくペアになる。


その度に長濱さんは解けない問題がなくてどの問題もスラスラと解いていく。



そんな長濱さんが羨ましかった。
出来ない自分が悔しかった。


だから、言うつもりなんてなかったのに言ってしまった。


「仲良くなれないと思う」



その一言が原因で私と長濱さんの距離はどんどんと離れていった。



隣の席で必要な時しか会話しない関係が少し寂しく思ってる自分がいたのはまだ知らなかった。



そんな時に行われた学年での球技大会。私はバレーを選んだ。
そこには長濱さんもいた。


球技大会だからクラスメイトは仲間だ。
練習を沢山重ねて本番を迎えた時、長濱さんの姿がおかしいことに気づいた。


緊張しているせいか手が震えている気がした。


そんな長濱さんを放っておくことが出来なくて、気づいたら長濱さんのそばへ駆け寄って背中をさすっていた。


「頑張って」


気づいたらそんな言葉を声に出していた。

言われるなんて思ってない長濱さんは目を大きく開いて、口が塞がっていなかった。




それから、私達は話すようになった。
気づいたら常に一緒にいるような関係にもなっていた。色んなことを相談出来るような関係にもなっていた。











「そんなこともあったね〜」

「懐かしい…ただただひどいこと言ってたよね、私…。」

「そんなことはなかよ、よねは悪くなか」

「ありがとう…」



桜が満開に咲く頃、ねると出逢えたこの高校を卒業する。


これから、私とねるは別の道へ進む。


嬉しいことや楽しいことだけではなく、時に苦しいことや悲しいことだってあるだろう。


遠くに離れてても心にはいつもねるがいて…。ねるの心にも私がいるといいな。



ねるが心にいる。それだけで強くなれる気がする。



最初はひどいこと言っちゃったし、印象は最悪だった。あの頃の自分が今の私たちを見たらひっくり返っちゃう気がする。



でも、今はただ一つだけ。
ねる…私と出逢ってくれてありがとう。






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