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□FALL/*kazunari*
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街ゆく人々は、シャンと背筋を伸ばして
忙しそうに早足で歩く。
「・・・どこに行けばいいんだろ」
行く宛もなくただフラフラと街を彷徨っている私は、まるで亡霊みたいだ。
歩き疲れて、格子の降りた高級ブランド店の壁に背中を付けてもたれかかる。
目の前を色んなカップルが通り過ぎて
ただただ幸せそうに歩く人たちを見たら、涙が出た。
「・・・泣いてるの?」
私の隣に少し距離を開けて
背中をトン、と付けたその人が
私と同じように道行く人々を見つめながら呟く。
「ほんとに辛いと涙なんか出ない、ってさ。あれ嘘だよね」
「・・・うん、俺もそう思う」
「・・・どれだけ流しても、湧き水みたいに溢れて困っちゃう」
スーツを着たその男性は、
ポツリポツリと話す私に
うん、って相槌を打ちながらゆっくりと深く煙草を吸う。
「ねえ。今日行くとこないならさ」
「・・・うん?」
「俺の店、来る?」
キラキラ輝くネオンに引き寄せられてその人に着いて行ったのは
私の心が、寂しいって悲鳴を上げてたから。
あの人に裏切られて、もうボロボロだったから。
地下1階のその店は、薄暗いのに所々照明がチカチカ点滅して物凄い音量でR&Bが流れる。
BOX席に案内されると同時に
内勤の男の子におしぼりを渡されて、
私は手を拭きながら物珍しくて店内をグルッと見渡した。
「やっぱりこういう店初めてなんだ」
「・・・え?ごめん音が煩くて聞こえない!」
隣に座る男性の問いかけに声を張り上げて応えると
私の後頭部に手を添えたその人が、耳元で話す。
「・・・どう?これで聞こえる?」
低くて甘いその声に一瞬目眩がして
鼓動が少し、早くなる。
「あ、そうだ」
そう言って胸の内ポケットから1枚、
私に名刺を差し出す。
「この店の代表の和也です。よろしくね?」
ホストの彼に心を奪われたのは
こんな、人生で1番辛い日だった。