ファンタジー小説

□嫌われ家政婦雇いました
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隆一郎(りゅういちろう)×忍(しのぶ)|
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大家に追い出されてしまい、公園で仕事雑誌に目を通している時だった。

「いたいた、不審者って、君のことだね」

突然警察が現れ、忍は驚く。

「ぼっ、ぼくは怪しいものでは・・・っ」

ただ、住むところを先週無くしてしまったため、滑り台の下でダンボールを敷いて寝泊まりさせてもらっていただけなのだ。

それが罪になるとは思わなかった。
忍は弁明をしなければと試みるも、緊張と焦りで口が思うように動いてくれない。

「まあま、とりあえず署まで来てくれる?ここのマンションの住民に公園に住み着いてる奴婢を追い出してほしいって苦情が来ててさ」

警察官は二名公園に来ていた。
話している若い警察官は優しそうだった。しかしもう一人の後ろにいる男性がとても怖い。見た目は50代前半で、あからさまに奴婢に対する侮蔑(ぶべつ)の目をしていた。


全ての荷物を持ち、交番に入る。座るよう促された時、ふるえる声で忍が問うた。

「ぼ、ぼくは捕まってしまうんでしょうか・・・」

「いやいや、厳重注意だけだよ。とりあえ名前ここに書いてくれる?」

逮捕されるものだと思っていた忍はホッと安堵した。

「字、きれいだね。あ、そうだ、次住む宛てとかある?」

「いえ・・・」

「あちゃー・・友達とかはいるの?」

「いない・・・、です」

「うーん、じゃあ僕んちに一時的に・・・」

優しい方の警察官が言いかけたと瞬間、ずっと黙っていたもう一人の警察官がさえぎる。

「おい、橘(たちばな)。奴婢を特別扱いするな。なるべく関わらない方がいい。それがこの国の一般常識だ。過去に奴婢を家につれこんで不自然にクビになったやつもいる」

「ああ・・・確かにいましたね・・・」

奴婢を保護してはいけないという法律は無い。しかし国の方針としては奴婢の遺伝子を持つ人間は根絶やしにしたいのが正直なところである。


奴婢を保護した警察官は辞任という形で警察を去ったということは橘も耳にしたことがある。
橘爽真(たちばな そうま)は同情心が大きく、犬も猫も、とりあえず拾ってしまう。
奴婢嫌いの兄と妹も説得すれば2,3日なら奴婢を留めてもさほど怒らないだろうと楽観的に考えたが、先輩の手前、大胆な判断は控えることにする。


日本には奴婢という、手から火を出す不思議な遺伝子を持った種族がいた。
現在はもう火を出す人間はいないが、病院で奴婢の遺伝子を持っていると診断される子供が現在100人ほどいる。

忍もその一人。

国としては手から火を出す可能性がある遺伝子を持つ奴婢などできれば増やしたくない。奴婢の遺伝子を持っている時点で人権を剥奪してしまい、奴婢の人口を減少するよう動いてる。

そのため15歳であったとしても、忍は国からの生活面の援助は一切受けることはできない。警察も、市役所も奴婢を手助けすることができないよう国側が操作している。


簡単に忍の身の上を聞き、他の公園へ行くよう促して注意は終了。時刻は11時だった。

帰り際、忍が「ありがとうございました」とペコリと頭を下げた。

橘は驚く。厳重注意をされたのに、お礼を言われてしまった。

「お礼を言われるようなことしたかな?」

「はい、お茶、とても美味しかったです。先週から、公園のお水しか飲んでなかったので・・・」

にこりと笑うその顔に、橘の同情心が動く。
家には奴婢嫌いの兄と妹がいる。
橘はどうしたものかと頭を悩ませた。

――庭の隅のテントに寝てもらえば・・・うん、拾った猫がテントに入ってるってことにすればごまかせるかな――


ペコ、ペコ、と何度かふりむいて頭を下げて他の公園へ向かおうとする忍の背中が見ていられなかった。

橘は先輩が仮眠に入るのを確認したあと、忍が向かった公園へと自転車を走らせた。

一度は関わるのを控えようと思ったが、橘の信念として放っておくことはできなかった。


***************

交番から出たあと、忍はもうひとつの公園へ向かっていた。この時間帯はほとんどだれもおらず、ただ一人暗闇で信号待ちをしていた。服の入ったカバンから求人雑誌を取り出す。ほとんど目を通した。どれも高卒以上で忍が働けそうなところはひとつも無い。ポタっ、と雑誌に水滴が落ちる。

「あっ・・濡れちゃう・・・」

急いで自分の涙で濡れたところを袖で拭う。無料の求人雑誌には履歴書がついているので大切にしているのだ。

泣くつもりはなかったが、これから生きていけるかどうか不安になってしまった。
亡くなった両親は裕福なほうではない。親から残された口座には5000円しか入っていなかった。
もうすでに残高は1000円。
はやく仕事を決めなければと焦りが生まれる。
青信号になり、歩き始めたときに後ろから自転車のベルが聞こえた。
ふりむくと、そこには先ほど会った優しい警察官が手を振っていた。

*************


「いたいた!って・・あれ?泣いてる?」


「い、いえっ・・・」

男が泣くのはみっともない。そう父から教えられてきた。忍はごしごしと目をこする。


「うち、庭に天体観測用のテントがあるんだ。普段は拾ってきた犬とか猫を入れてるんだけど、今は預かった動物みんなひきとられてテントあいてるんだ。よかったらうち来る?」

「っい、いいんですか・・・っ?」

「すぐに出ていってくれるならかまわないよ。それまでに寮付のお仕事探すんだ。工場とか、仕事選ばなければ色々あるから。いいね?。基本、トイレは公園で。僕がいるときだけお風呂は使っていいよ」

「ありがとうございます・・・・!」

忍は深く頭を下げた。











 
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