*すみません、どなたですか
□⒉遺跡の進み方
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⒉遺跡の進み方
部屋を出てみると、人っ子一人いない。
『え、置いてかれた?私1人で遺跡を進めと?』
Torielさんは私を見捨てたの…?
妙に蛇行している白い模様に目を凝らして考え込んでいると、少々人間味の薄い少年が現れた。顔つきが…心なしかカエル似かも?
視界が黒く塗り替わり、独りでに私の足が止まる。
『なっ!?』
見回してみるが周囲には誰もいない…目の前にいる少年以外は一寸の先も見えない深い闇だ。
私の胸の前にはオレンジ色に光るハートが浮かんでいた。
「げこっげこっ」
『……もしかして、これ、戦闘中?』
Friskの戦闘時には流れていたアナウンスは流れてないし、相手の名前やコメントの書かれたボードも出て来ない。MERCYやFIGHTのコマンドもない。
真っ暗な空間で、私はたいして身動きの取れないままに少年と向かい合い…浮かぶ、オレンジ色に光るハートを眺めていた。
おそらくこれは…私のソウルだ。
ソウルはその名の通り魂、血の流れていない心臓のようなものだったはず。普段は肋骨や肉で守られているが外に出たらガードはない。つまり私は今、無防備にも心臓を晒している。
危険度はモンスターの体の脆さとあまり変わらないだろうが、魔法を使えるだけ相手の方が有利に思える。
その不利を覆すため、Friskの場合は"決意"が力の源になっているようだけど…オレンジ色のソウルは決意じゃない。
…なんだったっけ?
「げこげこ」
急かすような声がする…どうやら私が行動するまで相手も何もできないみたいだ。ていうか普通に少年の声で擬音語を言われると変な気分になる。なんでゲコゲコ言っているのだろう?
不思議パワーが働いているのか逃げることもできなかったので、とりあえず話しかけてみることにした。先にFriskが見逃しているだろうから私を見逃してもらえる可能性はあるし、そもそも武器がないので戦う選択肢はまだない。
『えーっと、こんにちは』
話しかけても少年は首を傾げるだけだった。
Floweyの"なかよしカプセル"よりも小さい白い粒が飛んでくる。
身動きの取れない私は避けれな…どうやらコマンドがなくても、自分で何かしらの行動を起こせば次の行動ができるようになるらしい。私は動けるようになっていた。
身体を捻り、自分のソウルを引っ掴んで粒を転がるように避けた。ソウルを掴んだ瞬間、ぞわりと奇妙な感覚が背筋を走る…ソウルはあまり強く掴まないほうがいいかも。
私に避けられた粒が暗闇の中に溶けていく。どうやら攻撃は終わったようだ。
『この攻撃、もしかしてFrog…なんだっけ?Froggy?違うな…あっ、Froggit?』
「げこっ!…ぷろギッと!」
明らかにさっきとは違う反応。見た目の雰囲気からFroggitかもしれないとは思ってたけど…よかった、名前は通じてるみたいだ…て言うか今普通に喋らなかった⁈
『私は、Risky。よろしくね』
自分を指差して名乗ってみる。ついでに手も差し伸べて。
「▪w◇×?」
『Riskyだよ』
「◆×◯k」
『Risky!』
「l△j▪」
『…Risky』
「げこげこっ」
名前の発音は諦めることにした。というか相手が諦めた。
言語の壁高杉ィ…!
ちなみに差し出した手はガン無視だ。Froggitに握手の文化はないのか?
Froggitが、げこげこ言っている。よく聞くとアクセントに違いがあって、微妙に間延びしてる時もあるので、もしかしたらFroggit語のようなものかもしれない。出会って数分で意味を理解することはできなかったけど。
会話したのに攻撃がこないのでちらりと周囲を伺うと、いつの間にか周囲は暗闇から元の遺跡の景色に戻っていて、私の前にあったソウルも消え去っていた。
『MERCYできたんだ…』
「げこっ」
『…えっと、見逃してやるから先に行け的な?』
先に進む道を指差すFroggit。
ジェスチャーから推測して、別れを告げて針だらけの道に進もうとしてみたが、どうやら違ったらしい。
Froggitは私の手を引っ張り、針の道へと進んで行った。先導するFroggitの後に恐る恐る足を踏み出し、針が引っ込んだことに安堵する。正解のルートを教えてくれるみたいだ。
そのまま引っ張られて渡り切り…私はわざと間違えたルートの針をつついて見た。
『…硬い』
足で踏んでいたら危なかったかもしれないけど、つつくぶんには特に影響はなさそうだ。トラップでもあるかと思ったが、これなら木の枝かなにかで足場を確認しながら行けば問題はないかもしれない。手持ちに木の枝はないけど。
考え込んでいると突然Froggitに白い粒で攻撃された。全然痛くはないが驚いた。どうやらFroggitは私が針山をつついたことを怒っているようだ。
謝って先へ進む。
Froggitは針の道を引き返して行った。
え、着いて来てくれないの!?
「げこ」
Froggitは元いた場所からこっちを見ている。持ち場を離れるわけにはいかないようだ。
別れを惜しみつつ私は先へ進んだ。