少し長いお話

□貴女と私の秘密の関係4
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周りの物音が頭の中に入り込み、動き出した脳。
目を開くと見慣れない天井がそこにはあって、少しだけなれない肌触りの毛布があった。


「あぁ、うち・・・ここ」

「七瀬、いつまで寝てるのー。もうお母さんたちいくわよー」

「・・・えっ!?」

扉の向こうから聞こえてきた声に、思わず驚き飛び起きる。
自分が寝間着姿だということも忘れ、玄関に向かって走り出せば、そこにはスーツケースを持った母と、白石さんがいた。


「遅いわよ、もう」

「なんで起こしてくれんかってん」

「自分で起きてこないと。明日からよろしくね麻衣ちゃん」

「はい、わかりました」

「あ・・・白石先輩。おはようございます」

「おはよう」

「それじゃあ、しっかり戸締まりたのんだぞ」


二人は息ぴったりの様子で挨拶をして、仕事へと出かけていった。
扉が閉まる瞬間、あぁ、なんか両親を見送る新鮮な感じがして、変な気分になった。


ばたんと閉じた音とともに、隣から静かなため息が聞こえてくる。

「さてと・・とりあえず、着替えて顔洗ってきたら?」

「す、すいません」

「別に謝らなくてもいいのに。気使わないで。貴女の家でもあるんだから、今日から」

「はいっ」


そういうと、先輩はリビングへと歩き、姿を消した。
もう一度自分が寝ていた部屋へと歩いていく。
私が借りている部屋は、白石さんの仕事部屋として使われることの多い部屋で、特に大きなものもなく、お客さんがきたときもこの部屋に泊めるとの事だった。
少し先輩の部屋とは色も暗く、なれるまでには時間がかかりそうだ。

朝からすでに綺麗に化粧をして、髪型を整えていた先輩を思い出し、自分も朝の準備をする。
特に出かけることのない日は、一日中寝間着でいる自分が、休日の日に珍しく着替えているのだ。

顔を洗い、リビングへ向かうと大人っぽい香りが嗅覚をくすぐる。

「あら、早いわね」

「あ・・・先輩こそ。もう朝ご飯ですか?」

「ええ、食べる?」

「はい」


食卓テーブルに向き合う形で座り、朝食をほおばる。
トーストにサラダ、目玉焼き、コーヒーだなんて、なんとも完璧な朝ご飯。
ドラマでみるかのような食卓だ。

「うち・・・コーヒーは・・」

「あ、苦手だった?ごめんね。何飲みたい?」

「な、なんでもいいです。水でも、お茶でも・・・」

「そう?冷蔵庫自由にみていいわよ」

そういわれて、恐る恐る冷蔵庫をあけると、野菜ジュースや健康ドリンク、ジュースなどなど、本当にいろんな種類の飲み物が並んでいた。


「こ、ここはどこかのお店ですか?」

「・・どうかした?」

「あ、いえ・・・なんでもないです」

「そう」


いろんな種類の飲み物に興味を持ちつつも、これは次回機会があったら飲もうと決め、麦茶を手に取りグラスへと注いでいく。
食卓テーブルに戻ると、綺麗にトーストをかじる先輩の姿があった。


「・・・先輩は、いつもこんな休日を過ごしているんですか?」

「え?う〜ん、割と?」

「そ、そうなんや・・・」

「西野さんは違うの?」

「ん〜、うちは金曜の夜あたりからゲームして夜更かしして・・・それで、土曜日はお昼くらいに起きてゴロゴロしてたりしますね」

「そうなんだ。じゃあ、今日は無理させちゃったかしら」

「い、いえ!そういうわけやないんです!健康的な生活の方が体にいいですし!理想的ですっ」

「健康的って、ふふっ」

クスクスと笑い出した先輩。
さっきまで少しだけあった沈黙は、笑いへと変わっていった。
先輩の休日について聞いてみると、どうやら平日にみれなかったドラマや映画を見たり、買い物に出かけたりと、かなりアクティブな休日を過ごしているらしい。
関心していると、机の携帯が鳴った。


「あ、すいません」

「いいのよ。電話みたいよ?」


携帯の画面には「高山一実」と映し出されており、かずみんからの着信に慌てて出た。

「もしもし、なぁちゃん?おはよ」

「おはよう。どないしたん?」

「いや〜、今何してるのかなーって。暇だからなぁちゃん家に遊びにきたんだけど、呼び鈴ならしてもいないからさー」

「あっ・・・そっか。ごめん、ちょっと色々あって。かずみんにちゃんと説明しとらんかった」


電話で説明すると長くなりそうだからと、近くの駅を伝え、待ち合わせをすることにした。
出かける事を伝えると、白石先輩は柔らかく微笑んで許してくれた。


「あまり遅くならないのよ?」

「はい、いってきます」

「いってらっしゃい」


聞き慣れない「いってらっしゃい」の声がくすぐったくて、玄関の扉をあけたあと、もう一度振り返ってしまった。
すると、優しく手を振ってくれた先輩の姿があった。



***


最寄りの駅に着くと、遅れてかずみんも姿を現した。

「なぁちゃん!どうしてこの駅なのさぁ」

予想していた疑問を投げられ、近くの公園まで散歩をしながら事の経緯を説明した。
元々リアクションが大きいかずみんだったが、白石先輩と姉妹になるかもしれないという所で、息が止まりかけていたようにも思えた。

「じゃあさ、今週はずっと白石先輩と生活しちゃうの!?」

「まぁ、そういうことに・・・なります」

「ひゃぁー、すごいじゃん!!!」

「み、みんなには内緒にしといて!まだ、親同士が再婚するかもわからんしっ」

「わ、わかってる!クラスメイトにも内緒にするし、なんにせよ、白石先輩のファンクラブの子たちもなかなか強いからなぁー。これはばれちゃいけないかもね!」

「あ・・・そうだね」


あの人に、ファンクラブあったんだ。
忘れてた・・・


「じゃあ、今家に一人なの?先輩」

「うん、今日は家でドラマみるって」

「なんか大人だね〜」

「うん、朝もすごいんよ。朝食が完璧だったり、化粧もしとるし」

「1歳しか違わないのに、住む世界が違うみたいだね〜」


・・ほんまに。そうかも。

かずみんのいう住む世界の違い。
感覚とか、価値観とか、違うものが多そうで、先輩の領域に踏み込むことは少しだけ怖かった。
けど、話をすれば笑ったり、微笑んだりする姿は他の人と同じで・・・


「先輩も、ふつうなんかな」

「いや、なぁちゃん!ふつうではないぞ!絶対に!」

「そうかなぁー・・・」


いつも学校で憧れの存在でいる先輩は、大変じゃないのだろうか。
あれが自然で・・・先輩にとっては当たり前なのだろうか。


やはりわからないことが多すぎる。
いつも同じ感覚で過ごしているかずみんとの時間は楽しくて、気づけば夕方になっていた。
駅でお別れをし、いつもの癖で一度間違ったホームへと行ってしまいまた階段を駆け上がる。
なんだかこの生活に慣れるのだろうかと、心の中で苦笑いしながら、白石先輩の家へと向かった。

扉の前で深呼吸をしてインターホンをならす。


「はい」

「あ、西野です」

「どうぞー」

エントランスの扉が開き、中へと入る。
エレベーターの中で鍵をもらっていなかった事を思い・・・いや、もらえるのだろうかこの数日の生活なのに。


エレベーターを降りると、先輩が扉の前でたっていた。

「あ、おかえり」

「すいません、遅くなりました」

「ううん、まだ夕方だし」

「どこかいくんですか?」

「ん?いや、西野さんがまたインターホン押しちゃうかなって思って出てみたんだけど」


どきん・・・


「あ・・・」

「どうかした?」

「い、いえ////なんでもありません!」

「そう?じゃあ、中はいろう」

「・・・はいっ」


どうしてこの人は、こんなに完璧なのだろう。
一つひとつの優しさに触れるたびに、私は・・・


自分のわき上がる感情に静かに蓋をした瞬間だった。



〜つづく〜


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