いちだんめ。

□やさしさとは。
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【理佐】





「ごめん、別れよう。」

「…っ、」


放課後、いつものように君を呼びに来たあの人。付き合った時から学校中で噂になるほどお似合いの二人だった。
今日も一緒に帰るのかなって思ってたけど、校舎の玄関を出てすぐ横の水道の裏で、君が別れを告げられる瞬間を見てしまった。

世界が止まって見えて、私はその場から動けずにいると、伏し目がちにその場を去ろうとしたあの人が近づいてきた。

「…理佐。」

『あっ…き、今日、部活ないみたいでさー、もう帰るんだよねー。愛佳は?』

「…うん、私も今から帰るところ。鞄、教室だから…。」

『そっか…、じゃあまた明日ね。』

「うん、また明日。」



《何で別れたの?》

なんて聞けなくて、私は愛佳の背中をただ見送った。左後ろから聞こえる、擦るような足音と鼻をすする音。
今、君と話したら自分の気持ちばかり先走ってしまいそうで、右回りで振り返って足早に校門を出た。

もしもさっき、すぐに駆け寄って君を抱きしめたり、涙を拭ったら私たちの関係は少しは変わるのかな。

"優しい人が好き"といって笑った君の思う優しさって、なんなんだろう。


考えたって、答えは出ない。
私は、君のことを何も知らなかったんだ。
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