すべてを、君と。

□大いなる勘違い
1ページ/11ページ

「ーー茉莉花、少しいいか」
「あっ、はい!」

書状の確認を終え、政宗様の部屋から退出しようと襖を開けた時、茉莉花を呼び止める声がかかった。
靄がゆっくりと心を染めるのを感じながら、今日もまた気付かぬ振りを表に貼り付ける。

聞いてしまえ。そうしたら楽になる。心が最善策を強く訴えてくるものの、背中で感じるひっそりと窺うような視線から逃げてしまう自分は相変わらずだ。
尋ねても納得のいく答えはもらえないことを知っているから敢えて踏み込まないのだと言えば、格好がつくだろうか。

ーー政宗様と茉莉花の様子がおかしい。
それに勘づいたのはいつだったか。

二人でいるところを目にする機会が増えた。これは疑念を抱いてから後付けしたことだから、過剰に見えているだけかもしれない。実際、その場その場では何とも思わなかったのだから。
出くわした時の二人の、しまったとも取れるような表情を目にするまでは。

茉莉花が男装を解いたばかりの頃、政宗様は冷静を装ってはいたもののやはり若干の戸惑いは隠しきれていなかった。
流石にもう慣れたようだが、政宗様が進んで二人きりになるとは考えにくいというか、まずない。俺との関係を知っているから尚のこと。
そう疑わなかったのだが。

…いや、考えるだけ無駄だ。疲れているのかもしれない。これほどに下らない妄想をするとは。

茉莉花が裏切ることは有り得ない。ましてやその相手が政宗様?

「…馬鹿げている」

執務室に続く廊下を足早に通りながら、情けない自分に言い聞かせる。
こんなことを数週間も続けている自分がひどく恨めしかった。
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ